自動車メーカーのモーターショー離れなぜ進む? トヨタがドイツショー撤退した背景とは

モーターショー衰退の背景にはSNSの台頭と「クルマのネタ枯れ」が存在?

 それにしても、なぜこのタイミングで世界のモーターショーが一気に衰退してしまったのでしょうか。

 モーターショーから撤退する理由として、自動車メーカー各社が挙げるのがSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の影響です。

東京モーターショー2019のメイン会場として予定されている東京ビッグサイト
東京モーターショー2019のメイン会場として予定されている東京ビッグサイト

 長年に渡り、ユーザーは新車やコンセプトモデルなどの実車を見ることで、クルマの良さや価値を知りました。モーターショーでは世界初のモデルがお披露目される場所として、来場者はワクワク・ドキドキする体験をしてきました。

 それが近年では、新車発表前からネット上で、スパイフォトやスパイビデオと呼ばれるような公道実験の様子が溢れかえるようになってきています。

 また、新車の販売開始の時期が国によって多少ずれる場合、先におこなわれた試乗会などの模様が多言語化されて、ネット上で拡散しています。

 クルマを評価するコンテンツも、プロの自動車評論家によるものだけではなく、個人が動画共有サイトにアップロードした走行体験動画などが当たり前になってきました。

 SNSを中心としたネット上の仮想体験が、実車を見たり触れたりする現実体験よりも優先されるような社会環境になったといえます。

 一方で、モーターショーの出展コストは派手な演出や舞台の大規模化など年々増加してきました。

 モーターショーの開催期間は10日間から2週間程度ですが、自動車メーカーそれぞれがかける費用は少なくても3億円から5億円。欧州で自国開催となる大手メーカーの場合、50億円近い巨額出費になっています。

 そこまでの金額をかけて、実際にはどれだけの新車が売れるのでしょうか。

 費用対効果を精査した結果、「もうモーターショーは必要ない」と判断する自動車メーカーが増えるのは当然なのかもしれません。

 こうしてモーターショーから撤退する代わりに、サーキット走行会など自社単独のイベントを開催して新車販売を促進する傾向が、とくに高級ブランドでは増えてきました。

 ネット上での情報、または実車を遠目で見るだけのショーではなく、触れて、走って、そしてエンジニアなどそのクルマの専門家と直接話すことが、直接的な購買に結び付く。

 SNSなど仮想空間の情報が増えれば増えるほど、実際に走ったり操作するという現実社会との触れ合いが、購買動機を上げるために大切になってきたのです。 

 それからもうひとつ、モーターショーが一気に衰退した大きな原因に、「クルマのネタ枯れ」があると思います。

 近年の新車は外観のデザインが似ていて、「どこのメーカーのクルマか分からない」という意見が、消費者のなかから増えている印象があります。またクルマの中身についても、EVや自動運転機能など複数メーカーで部品を共通化する動きが加速しています。

 少々大げさにいえば、クルマが家電のようなコモディティになってきています。個性のあるクルマは、スポーツカーやスーパーカーなどごく一部で、軽自動車やミニバン、そしてSUVでも他ブランドとの差別化が難しい状況です。

 前出のパリモーターショー主催者のフランス人は、数年前「どこのクルマも似たり寄ったり、そんなクルマがズラズラと並んでいるだけ。そんなモーターショーはイベントとしての商品価値などありません」といい切りました。

 モーターショーの在り方が根本的に問われている。つまりは、社会におけるクルマの在り方が大きく変わってきているのだと思います。

 モーターショー衰退は、社会変化を映す鏡なのです。

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【了】

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Writer: 桃田健史

ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。

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1件のコメント

  1. (除く米国)20年位前までは、東京とフランク以外は、ショー(新技術展示)というより見本市的(お披露目)。ジュネーブでも、ブース内には電卓持った販売店の人がいました。その後、その多くが、メーカー主体でショー化・大型化され「過大な負担」化。目的・負担と結果を見直したのでしょう。

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