なぜスライドドア化増える? 人気ミニバンからヒンジ式が消える理由とは
ミニバンは「幸せな家庭の象徴」?
スライドドアのメリットは、開いたときにドアパネルが外側へ張り出さず、狭い場所でも開閉しやすいことですが、それ以上にミニバンの象徴的な装備として定着しました。ミニバンであることを明確に示し、ほかのカテゴリーとは差別化する上で、スライドドアは不可欠の装備だったのです。
いい換えればミニバンは、幸せな家庭の象徴ともいえます。子供が生まれると「いつかはミニバン」です。それゆえ、「パッソセッテ」はサッパリ売れませんでした。
3列目が狭く、自転車などを積めないだけでなく「パッソ」の車名が致命的です。車名が低価格のコンパクトカーと同じでは「いつかはミニバン」になり得ません。トヨタは馴染みやすいように「パッソ」という車名にイタリア語で7を意味する「セッテ」を組み合わせましたが、ミニバンユーザーの気持ちをまったく理解できていませんでした。
その結果、パッソは短期間で販売を終え、一度生産を終えた先代「シエンタ」がマイナーチェンジを施して復活するという、異例の事態になったのです。
復活した先代シエンタは、燃料タンクを前席の下に搭載するホンダ「モビリオ」の対抗車種として開発され、薄型燃料タンクを採用。これによって、3列目と荷室の床を低く抑え、モビリオに似た効果を得ています。薄型燃料タンクのノウハウは、2代目の現行シエンタに受け継がれています。
以上のように全高が1700mm以下でヒンジ式のミニバンは、ミニバン初心者が多かった普及期に使命を終えました。2010年以降には相次いで生産を終え、今のミニバンはスライドドアを備えた背の高い車種だけになっています。居住性や積載性が優れ、なおかつ「ミニバンのステイタス」も味わえるからです。
トヨタの「アルファード/ヴェルファイア」が人気を高め、フォーマルな用途にも使われていますが、それはファミリーユーザーの「いつかはミニバン」という想いが昇華した結果でもあるでしょう。
そして今の背の高いミニバンは、自動車の遠い将来も見通しています。クルマが完全な自動運転になれば、交通事故は発生しないため(交通事故がゼロにならない限り自動運転は実現できない)、ボディの衝撃吸収構造は不要です。
乗員は、移動中に仕事や趣味を楽しむなど、車内を自宅や職場のように使いますから、ボディは空力特性の優れたカプセル状になるでしょう。既存のミニバンでいえば、エスティマのようなイメージです。
このように自動運転の時代まで見据えると、ミニバンはクルマのデザインが進化した最終的な形かも知れません。
【了】
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
ラフェスタはヒンジでなくスライドですよ
ミニバンのスライドドアが重宝がられるのは、子供が明け閉めしても隣の車にドアパンチする心配がないからだと思う。
社用車、役員車にアルファードが増えてるのは、単に室内空間が広いから。いつかはミニバンの憧れではないと思う。