なぜ今なのか? トヨタが新車定額サービスという一手を打つ理由

自動車業界の変換期、先駆者「ダイムラー」に対する「トヨタ」の戦略とは

 最初に時代の変化に対応したのが、「メルセデス・ベンツ」ブランドを展開するドイツのダイムラーです。ダイムラーは2016年後半から、「CASE(ケース)」というマーケティング用語を使って、自動車産業が直面する変化への対応を始めました。

「CASE」とは、『コネクテッド(通信でつながる)』、『オートノーマス(自動運転)』、『シェアリング』、そして『エレクトリフィケーション(電動化)』の頭文字を並べた造語です。この「CASE戦略」の一環として、ダイムラーは2018年初頭からドイツ国内の一部ディーラーで、サブスクリプションモデルの実証試験を始めました。
 
 その内容を見た自動車メーカー各社の関係者は腰をぬかすほど、驚きました。なんと、メルセデス・ベンツの全モデルを、最短1ケ月で乗り換えられるというものだったのです。

 こうしたダイムラーの大胆な戦略に対して、欧米、そして日本の自動車メーカーが対抗策を考案するのは当然だといえます。今回トヨタが発表した、レクサス乗り換えサービスの「KINTO SELECT」は、まさにそれに該当します。

「KINTO SELECT」で乗れるレクサス「ES」

「KINTO」が導入されることで、これまで行ってきた新車や中古車の販売やリースにどのような影響が出るのでしょうか。

 頭金なし、税金から保険まで込みの「KINTO」は、ユーザーにとって魅力的なサービス商品。いまのところ、「KINTO ONE」と「KINTO SELECT」の2つのプランだけですが、他社も同様のサービスを本格導入するのは明らかで、そうなると価格競争が始まり、ユーザーにとってのメリットはどんどん上がるのです。

 しかし、新車の乗り換えを短期に行うと、大量の中古車が生み出され、新車は最初の車検有効期限となる3年目まで、車種にもよりますが下取り価格は新車の半値程度まで落ちます。

 そうした程度の良い中古車が市場に溢れれば、新車が売れなくなるかもしれません。そうなれば、一番困るのは自動車販売店です。

 今回の「KINTO」導入について、トヨタ本社は全国のトヨタディーラーに対して少なくとも2年間に渡って説得してきました。これはトヨタの国内営業幹部が2018年11月の記者会見で明らかにしています。

 また、この記者会見では、トヨタの全店舗全車種併売への移行についても発表されました。つまり、どのトヨタでも同じクルマが買えるというものです。

 現在、トヨタのお店は、レクサスを除いて、「トヨタ店」、「トヨペット店」、「カローラ店」、「ネッツ店」の4系統あります。

これら4系統を事実上、廃止することになったのです。手始めに、2019年4月1日から東京地区では4系統の名称が廃止され、トヨタとして統一。また、東京地区以外では2022年から2025年にかけて、各地域の販売会社の判断で販売網の再編を行うのです。

 1960年から1970年代の経済高度成長期を契機に、拡大路線を歩んできた自動車販売業。『若者のクルマ離れ』、『サブスク』、そして『シェアリング』など時代の変化を受けて、クルマの売り方・買い方がいま、大きく変わろうとしているなかで、「KINTO」は、そうした巨大な時代変化の氷山の一角に過ぎないのです。
 
【了】

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Writer: 桃田健史

ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。

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