2019年も新型車が少ない!? 新型車はバブル期の半数以下に 国内市場は残念な現状
海外とは異なる特殊な日本のマーケット
この日本のユーザーを軽視した安直な商品展開も売れ行き不振の材料になり、国内販売は1990年の778万台をピークに、急降下を開始します。その一方で海外は売れ行きを伸ばした結果、2000年頃には国内比率が約30%に下がりました。2010年には20%に減り、今はそれ以下となっています。
2018年の国内販売台数は527万台ですから、1990年の68%です。国内市場を諦めて新型車の発売も怠ったため、売れ行きがさらに下がる悪循環に陥りました。
メーカーの商品企画担当者に尋ねると、この国内軽視については、いくつかの言い訳が聞かれます。まずは市場環境です。「国内市場は特殊なのです。国内専売の軽自動車が全体需要の36%に達して、海外ではマイナーな3列シートのミニバンも売れ筋です。日本と海外の両方で売れるのは、コンパクトカーだけです。これでは日本向けの商品を積極的に開発するのは難しいです」とのことです。
また「今は国内市場を贔屓(ひいき)しません。市場の規模と将来性を客観的に判断して、投資対効果の高い市場には、新型車を優先的に投入します。日本は市場規模が縮小傾向で、将来的にも需要が伸びる見込みが乏しいため、新型車も少ないのです」
「日本で買えない日本車」をもっと国内で活用すべき
このほかには「クルマの耐久性が向上して、1台の車両を長く使うユーザーが増えました。そうなればフルモデルチェンジの周期も長引きます」「環境や安全技術への投資が高まり、以前ほど新型車を活発に開発できません」といった話も聞かれます。
いずれも理屈は通りますが、成り行き任せでしょう。国内の需要を積極的に掘り起こして回復させる心意気は見えません。モーターショーの開催年だから、新型車を発売するといった意欲もありません。
この状況では、国内販売の回復は難しいでしょう。自動車業界を元気にする一番の原動力は、魅力のある新型車になるからです。
新型車が発売されると、それを見に出かけた顧客が自分のニーズをあらためて見直して別の車種を購入することも多いです。新型車はいろいろな意味で、市場を活性化させるのです。
したがって国内向けの新型車を開発するのが難しいなら、せめて海外向けの商品を投入すべきです。かつてトヨタが販売していた「FJクルーザー」、ホンダ「エレメント」などは、北米向けの商品でしたが相応に注目されました。海外向けに開発された「日本で買えない日本車」を、もっと国内で活用すべきです。
業務提携をいかせば、たとえばルノー「トゥインゴ」を新しい日産「マーチ」として販売するなど、柔軟な商品開発も考えられます。もちろん最善の方法ではありませんが、新型車がほとんど発売されない状態がもっとも悪いのです。いつの時代も、クルマは楽しく、興味を引きつける商品であって欲しいです。
【了】
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。