トヨタ「ハイラックス」が若者から支持される理由 日本でピックアップが売れないは間違い!?

すべての若者が”クルマ離れ”しているわけではない

 それにしても「若い人達が370万円以上のクルマを買うのか?」と思いますが、残価設定ローンを積極的に活用しています。残価設定ローンとは、3~5年後の残価(残存価値)を差し引いた金額を分割返済するローンのこと。残価以外を返済するので、返済期間を満了しても車両は自分の所有になりませんが、返済額を抑えられます。

トヨタ「ハイラックス」(左:標準モデル/右:特別仕様車)

 そして「ハイラックス」は残価が高いモデルです。販売会社によって異なりますが、大半が3年後でも60%前後となっています。一般的には3年後だと40~45%なので、返済する割合は55~60%です。それが「ハイラックス」であれば約40%で済み、その分だけ月々の返済額を安くできるワケです。

「ハイラックス」の残価が高い理由をトヨタ店に尋ねると、「新型車なので、注目度が高い割に中古車の流通量は少ないです。いわば貴重な車両だから売却額も高く、残価率が上昇しました。海外への中古車輸出も活発なので、3~5年後でも好条件で売却できるでしょう」といいます。

 この残価設定ローンを使っても、月々の返済額(頭金を入れない均等払い)は、36回払いが5万6700円、60回払いでも4万3500円なので、高い買い物には違いありません。それでも20代から30代が積極的に購入しています。

「ハイラックス」の売れ行きからわかるのは「やり方によっては、若年層もクルマに振り向く」ことです。バブル経済期と違って圧倒的多数の若い男性がクルマに憧れることはないですが、すべてがクルマから離れているわけでもありません。

 その意味で先の開発者が述べた「マーケットは自分達で作るもの」は本質を突いた言葉です。好みは世代によって違うので、今の若年層を過去の経験だけで語ることはできません。「ピックアップなんて今さら売れるワケないでしょ」と諦めたらダメなのです。

マイナスをプラスに変えた「ハイラックス」の販売手法

「ハイラックス」は月販約500台の売れ行き保っており、あながち隙間商品とはいえません。スバル「レガシィB4」「アウトバック」、マツダ「アテンザ(セダン/ワゴン)」と同等の台数になるからです。

 そして最近はスズキ「ジムニー」、ホンダ「N-VAN」など、ベーシックで原点回帰のような商品が注目されています。「ハイラックス」は価格を含めて「ジムニー「や「N-VAN」とはかなり違いますが、「アルファード」「ヴェルファイア」のようなむやみに飾り立てるクルマ造りとも一線を画します。

 日本が今の沈滞した自動車市場から脱却するには、ユーザーにいろいろな提案をして、反応を見るしかないでしょう。

 この時に強みとなるのがグローバルな商品展開です。「日本で買えない日本車」は多く、国内へ積極的に導入したいです。日産なら「マイクラ(マーチ)」や「キャッシュカイ(以前のデュアリス)」、ホンダは「シビッククーペ」、トヨタには「ヴィッツ」よりも小さな「アイゴ」があります。「アイゴ」はコストを徹底的に抑えた商品ですが、かつてのスズキ「スプラッシュ」のような割り切りがあっておもしろいです。

 また日産は新型車の発売が1~2年に一度という状態なので、海外向けの商品でも国内へ意欲的に導入すべきです。

 日本のメーカーは、グローバル化の悪影響で国内市場を軽く見るようになり、商品投入が滞って売れ行きをいっそう落としました。「ハイラックス」は、このマイナス要因を逆に利用して、プラス効果を得ることを示しているのです。

【了】

特別仕様車やTRDパーツで”ハイラックスサーフ風”に変身した「ハイラックス」の画像を見る(18枚)

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Writer: 渡辺陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。

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