新型「スープラ」発表の影で「働く人々の動画」のフォード 希望の光ある? デトロイトのこれから

フォード創業の地

 ダウンタウンの外れ、デトロイトモーターショーの会場から歩いて15分ほどの場所に、コークタウンという町があります。ここにはかつてフォードの工場があり、同社創業の地でもあります。

 現在はクラシカルな高級住宅街ですが、2017年の終わり、フォードはこの地にある古い工場を改修し、自動運転と電気自動車(EV)の開発および販売戦略チームの拠点とすることを発表しました。

「エクスプローラー ハイブリッド」のワールドプレミアを行ったフォード

 今後の自動車産業の潮流を考えた時、自動運転とEVは欠かすことのできない要素であり、それはフォードにとっても同様です。その重要な2つの要素の拠点を、歴史的な場所に置くというのは、単に都合が良かったからというだけではないでしょう。

 プレスカンファレンスでは、自動運転を含むスマートシティ構想の発表やピュアEV市販までの布石ともいえる、「エクスプローラー ハイブリッド」のワールドプレミアも行われました。あらゆる自動車メーカーが、自動運転とEVをキーワードに新型車の開発や新しいビジネスモデルの構築に投資をしており、フォードも例外ではありません。

 いま、自動車メーカーは100年に一度の大変革を迎えているといわれています。既存のビジネスモデルでは、企業の発展はおろか存続することすら危ぶまれている時代です。フォードは、生き残るために、変化しようとしているのです。そしてそれは、自社の業績向上のためだけではなく、デトロイトという街を再興をフォード自身が担っているという責任感によるものでしょう。

「古き良きモーターショー」に価値はあるか

 世界で最も重要なモーターショーのひとつと呼ばれていたデトロイトモーターショーですが、今年はメルセデス・ベンツやBMW、マツダといったブランドの姿が見えませんでした。彼らは決して北米市場でのビジネスを捨てているわけではありません。ただ、デトロイトモーターショーが彼らの考えるマーケティングの場として適当ではないのです。

 いま、世界的にモーターショーの価値が低下しているともいわれています。新型車のアピールや、自社のステートメントを伝える情報発信の場所として有益だったモーターショーですが、インターネットの普及などを背景に、必ずしもモーターショーで情報発信をする必要がなくなってしまいました。

 かわって勢力を強めているのが、コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)に代表されるテクノロジー関連のショーです。自動運転やEVなど、新しいテクノロジーがキーワードとなっている自動車産業において、テクノロジーショーは自社の新技術を発表する場として注目されています。

 とくに、毎年1月に行われるデトロイトモーターショーは、同時期に開催されるCESと日程が重なることもあり、双方に出展することは効率的ではないという判断から、いくつかのメーカーがCESへの出展にシフトしています。結果として、デトロイトモーターショーは年々さびしいものになりつつありました。

 しかし、希望の光がないわけではありません。今回のデトロイトモーターショーでは、フォードからはビル・フォード会長、トヨタからは豊田章男社長に加えて内山田竹志会長、フォルクスワーゲン(VW)からはヘルベルト・ディース会長と、日米欧を代表するメーカーのトップが揃いました。

 表向きには、プレスカンファレンスに登壇するためということですが、各社それぞれ会談の場をもっていたことは間違いないでしょう。ショーの会期中にフォードとVWの提携が発表されたことはその証左です。

 このように、新車発表のマーケティングの場としてのデトロイトモーターショーの価値は、年々失われつつありますが、長きにわたって北米自動車市場の本拠地として君臨するデトロイトという街には、多くの自動車産業関係者がそろい、顔を合わせることができるという地の利があります。公式/非公式を問わず、自動車産業における重要な会談の機会として、デトロイトモーターショーは一定の価値を持ち続けるでしょう。

 毎年年始に行われていたデトロイトモーターショーは、2020年より6月の開催となります。これによって、ほかのイベントの競合を避けられるだけでなく、それまで不可能であった屋外での大規模な自動運転の体験試乗などを行うことができます。間違いなく、フォードは最大規模での出展を行うでしょう。

「イノベーション」という言葉から長らく遠ざかっていた「デトロイト」と「デトロイトモーターショー」ですが、いま100年ぶりに生まれ変わろうとしている最中にあります。その鍵を握るのは、フォードなのかもしれません。

【了】

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