マツダはなぜ世界で好評を得たCX-5ではなく、「マツダ3」を新世代モデルのトップバッターに選んだのか

デザイン/走り/快適性の3つの価値で勝負する

 トレンドに逆行しながらも、新型「マツダ3」は、先代の高評価を上回らなければなりません。そのための戦略とは?

「お客様にとって何が価値あるものなのかを考えぬきました。競合やマーケットがどうのこうのではありません。突き詰めたナンバー1になる。“心が揺れる”がテーマです。理屈ではなく、心から欲しいと思うクルマにならなければなりません」と別府氏。

 そこで三つの価値が新型『マツダ3』に与えられたといいます。

新型「マツダ3」のロゴバッジ

 ひとつめが「人の中にある不変の憧れを形にしています」と別府氏が説明するエクステリアデザイン。進化した魂動デザインのフェーズ2と呼べるものです。今回は、セダンとハッチバックでテイストが大きく異なっています。実際にドアもフェンダーもセダンとハッチバックは別物で、同じなのはボンネットくらいです。「セダンはON/OFFで言えばONの世界。フォーマル。社会で成功した人のイメージです。ハッチバックは、世間の常識に縛られない。感性のままに動く人をイメージしています」と別府氏。

 ふたつめの価値は、「運転する人の感性を高める人馬一体の走り」とのこと。人間中心の開発によって、クルマに乗れば乗るほど感性が磨かれるというのです。たとえば、人のパフォーマンスを高めるには骨盤を寝かすのではなく、垂直に立てたほうが良いといいます。ドライバーズシートに座ったときに骨盤が立っていた方が集中力は高まる。そうした着座姿勢を『マツダ3』では実現しているのだといいます。

 そして最後の三つ目の価値が、「圧倒的に快適な室内空間」。静粛性が向上しているだけでなく、音の伝わる方向や時間などにもこだわり、その上でオーディオを刷新したとのこと。ドアパネルの中に大きなスピーカーがあるのは、音響的に実はあまりよくないのだそう。そこで新型「マツダ3」ではドアパネルに、中音域と高音域のスピーカーだけを残し、低音用のスピーカーはドアの前のフェンダー部分に移動しています。

「すべてを見直すというスタンスで、サウンドのところも新しくできました。クルマ作りから言うとプラットフォームを作って、アッパーボディを作って最後にスピーカーを置こうとなりますが、今回は、最初の段階からスピーカーレイアウトをどうするのか? と作り込んできました。

 また、今回のエクステリアデザインは、新しい『マツダ3』の入り口だと思っていただけたらいいなと。もし興味があれば、そのドアを開けていただけたら、次にはこれまでにないドライビングフィールと快適性が体験できるというわけです。実は、今回の静粛性とオーディオをあわせて、我々は “走るオーディオルーム”と呼んでいます。自分のプライベートルームと思っていただいてもいいくらい徹底的に質を高めています。乗っていただければ、『おお!』と声が出るほど感動いただけると思います」と別府氏は自信をのぞかせます。

 ここまで話を聞いて不思議に思ったのが、話題の新エンジンである『スカイアクティブX』が出てこないことです。

量産車初搭載となる次世代ガソリンエンジンのスカイアクティブX

「『スカイアクティブX』は目玉ですけれど、すべてのお客様向けのものではありません。ガソリンエンジンの『スカイアクティブG』もあれば、ディーゼルエンジンの『スカイアクティブD』もあります」と別府氏。

 つまりは、話題の「スカイアクティブX」は、あくまでもオプションという扱いなのです。夢の新エンジンという飛び道具なしでも勝負できる。それが新型「マツダ3」というわけなのでしょう。

 ちなみに、旧世代でなにかと不満の声が上がった「マツダコネクト」は、新型「マツダ3」からまったく新世代のものになっています。基本性能を高め、表示や操作系も新しいものになったといいます。

 現在のところ、新型「マツダ3」は、ひとつめの価値である“デザイン”が披露されただけ。残る“走り”と“快適性”というふたつの価値はこれからなのです。しかし、最初の“デザイン”の出来の良さからすれば、残るふたつに対する期待も高まるばかり。ハンドルを握る日がくるのが楽しみになりました。

【了】

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