まるで「カチョ・エ・ペペ」!? 新車369万円からのフィアット新型「“ちいさな”SUV」実際どう? シンプルなのに味わい深い「グランデパンダ」に注目!
ステランティス ジャパンは2026年10月16日、フィアットの新型コンパクトSUV「グランデパンダ ハイブリッド」を11月7日に発売すると発表しました。初代「パンダ」の思想を受け継ぎながら、現代的に進化した新モデルの走りはどうなのでしょうか。実際に試乗して確かめました。
初代「パンダ」のDNAを受け継ぐ新型モデル
「いや、これはちょっと、いやかなり気に入ってしまいました!」
試乗を終えてクルマから降りた瞬間、思わずそんな独り言が口をついて出てしまいました。そしてステアリングを握りながら、ずっと頭のなかで反芻していた言葉があります。
「これ、パンダというよりも『グランデ・プント』の進化版じゃないか!」と。
1980年に誕生した初代パンダの神格化されたミニマリズムや道具感を懐かしむ声は多いですが、実際に乗ってみて身体にビシビシと伝わってきたのは、1990年代から2000年代にかけて欧州の街を元気に駆け回っていた、あのフィアットの小気味よいコンパクトカーのリアルな血統でした。

今回は、日本上陸を果たしたばかりの新型「フィアット グランデ パンダ ハイブリッド」を連れ出し、その設計思想から走りのテイスト、そして「なぜこのクルマがこんなにも心に刺さるのか」を深掘りしてお届けします。
まず目を奪われるのが、そのエクステリアデザインです。
新型のスタイリングには、1980年にジョルジェット・ジウジアーロ氏が手掛けた初代パンダのスクエアなモチーフが色濃く受け継がれています。立ち気味のフロントウインドウやAピラーの角度、エッジの効いた直線基調のプロポーションは、「あ、パンダだ!」と分かるアイデンティティに満ちています。
さらに、サイドに配された樹脂クラッディングや盛り上がったフェンダー、大径タイヤと高めの最低地上高が生み出すタフな雰囲気は、これまた往年の「パンダ 4×4」を強く想起させてくれます。
ボディサイドに大胆に刻印された「PANDA」の立体ロゴも、ステッカーではなくボディパネル自体を凹凸で成形したもので、道具感を引き立てています。
面白いのは、単なるノスタルジーにとどまっていない点です。フロントマスクやLEDヘッドライト、テールランプには、1980年代のレトロゲームやデジタルカルチャーを思わせる「ピクセルグラフィック」が散りばめられています。
角ばったアナログな道具感と、8ビット調のデジタル表現が見事に融合した、まさに“アナデジ”の世界です。
最新のEV(電気自動車)やSUVがこぞって無機質で滑らかな未来感を競い合うなかで、このどこか温かみがあり、思わずクスッと笑みがこぼれるような演出は、フィアットならではの真骨頂といえます。
インテリアはデザインと実用性のせめぎ合いが実に面白い仕立てになっています。
トリノの旧リンゴット工場のオーバルコースを模したダッシュボードやメーターパネル、初代パンダの「何でも放り込めるオープントレイ」へのオマージュなど、遊び心で満ちています。
驚きなのは、助手席側のオープントレイを成立させるために、助手席エアバッグをルーフ側へ移設している点です。
「ステランティスグループのスケールメリットを活かした共有」を徹底しながら、ユーザーが触れて喜ぶディテールには、とことんコストと手間をかけています。
また、手が触れないダッシュボード上面は割り切ってハードプラスチックの素材感をそのまま生かし、ドアアームレストなど人が触れる部分にはしっかりとクッション性を持たせています。
「無駄な見栄は張らない。けれど必要な快適性は譲らない」という合理主義こそ、フィアットの真骨頂といえるでしょう。
メカニズムはどうでしょうか。
基本骨格には、ステランティスグループの「スマートカー・プラットフォーム」が採用されています。シトロエン「C3」などと土台を共有し、パワートレインも最高出力101馬力・最大トルク205Nmを発揮する1.2リッター直列3気筒ターボエンジンに、最高出力20馬力・最大トルク51Nmのモーターを内蔵した6速e-DCTを組み合わせた48Vマイルドハイブリッドです。
システム最高出力は110馬力で、駆動方式はFF(前輪駆動)。メカニズム自体のトピックは、それほど多くありません。
いまや多くのブランドがプラットフォーム共有を進めていますが、時にそれは「どれに乗っても同じ味」という退屈さを生んでしまいます。
とりわけアルファロメオやシトロエンのように、明確な技術的・走りのアイコンを持つブランドでは、プラットフォーム共有による画一化に対してファンからさまざまな反発が起きやすいのも事実です。
しかし、フィアットは違うと筆者(山本シンヤ)は考えます。
過去のフィアットのモデルを振り返ってみても、ハードで何か突出した魔術を持っていたわけではありません。手に入る最良の実用素材を使い、料理人の腕ひとつで極上の家庭料理に仕立てるのがイタリアの伝統です。
言うなれば「カチョ・エ・ペペ(チーズと黒コショウだけ)」や「アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ」の世界に近いような気がしています。
素材はどこにでもある普通のものなのに、火加減と塩加減ひとつで、うなるほどおいしくなる。グランデ パンダの走りには、まさにその“フィアット流の調味料使い”が見事に炸裂しています。
走らせて分かった“フィアット流の味付け”
今回は東京都内の一般道から首都高速を中心に走行してきましたが、乗り“味”/走り“味”の重要性に感心することばかりでした。
アクセルを踏み込んだ瞬間に驚かされるのが、中低速域でのトルクの豊かさです。
48Vマイルドハイブリッドのモーターアシストが実に自然かつ力強く介入し、1270kgのボディを軽々と押し出してくれます。

「あれ? 1.2リッターなのに、なんでこんなにトルクフルなんだろう?」
思わず顔がほころんでしまいました。
かつてフィアットの屋台骨を支えた「FIRE(ファイア)エンジン」を彷彿とさせる粘り強さ。さらにアクセルを踏み込んでいくと、3気筒ユニットがコロコロと快音を響かせながら、活発かつレスポンスよくエンジンが回ります。タコメーターがないのが残念です。
直列3気筒のサウンドは、静粛性を過剰に追い求めていないぶんダイレクトに耳へ届きますが、常用域では低音がしっかり効いていて、耳障りな安っぽさは抑えられています。
「回して元気、下で粘り強い」という特性と、デュアルクラッチ(DCT)の小気味よくダイレクトな変速レスポンスが絶妙にかみ合っており、まるでこのグランデ パンダのためにパワートレインをあつらえたのではないかと思えるほどの相性の良さを見せてくれます。
パドルシフトなどは未装着ですが、シフトセレクターで「L(ロー)モード」を選ぶと、減速時に積極的にギアを落としてエンジンブレーキを効かせてくれます。
事実上の“隠れスポーツモード”として機能し、首都高の合流やタイトコーナーの立ち上がりでキビキビとした加減速を演出してくれます。
フットワークもまた、歴代フィアットの文法どおりです。
全高1630mmのクロスオーバーながら、トレッドを広くとったスタンスのおかげで、直進時のドッシリとした座りの良さはBセグメントの域を超えています。
特筆すべきはロールの調律です。
ステアリングを切り始めた瞬間、初期のグラッとするロールはスッと抑え、そこからサスペンションがストロークし始めると、外側のタイヤに荷重を乗せながら「じわーっ」と粘って姿勢を決めていきます。
シトロエンのような雲の上を漂う柔らかさとも違い、アルファロメオのような身構えた硬質感とも違います。
「普段着で、気負いなくスポーティ」。
この足腰のしなやかさは、まさに欧州の路地裏や石畳で鍛え上げられてきたイタリア車そのものです。
また、試乗時に痛感したのがシートの出来栄えでした。
「板チョコ」のような角型エンボス加工が施されたファブリックシートは、一見するとカジュアルなデザイン重視に見えますが、実際に身体を預けると適度なコシがあり、体圧分散が極めて緻密に計算されています。
座面の当たりは優しく、奥でしっかりと骨盤を支えてくれるため、長時間のドライブでもまったく腰に負担がきません。
このあたりも「小さくても長距離を走ってナンボ」の欧州実用車の本領発揮といえます。
一方で、注文をつけたい部分もあります。
安全運転支援システムは衝突被害軽減ブレーキやレーンキープアシストを備えるものの、クルーズコントロールは前走車追従機能のない通常タイプにとどまります。
長距離ツアラーとしての基本骨格が極めて優れているだけに、「せめてACC(アダプティブクルーズコントロール)だけはオプションでも欲しかった」というのが本音です。
また、試乗車に装着されていたアクセサリーのドライブレコーダー付き電子ルームミラーは、立ち気味のフロントウインドウとコンパクトな室内に対して本体がやや大ぶりで、逆に前方の視界抜けをスポイルしている感がありました。
グランデ パンダ本来の広々としたグラスエリアと開放感を味わうなら、標準のシンプルなルームミラーのままでも十分だと思います。
試乗車の「La Prima(ラプリマ)」は上級グレードで、車両本体価格は409万円(税込)から。今回の試乗車はアクセサリー込みで450万円台半ばとなり、ベースグレードの369万円から見ても、かつての「安くてシンプルな足グルマ」というパンダのイメージからすると、正直なところ「少し割高だな」と感じる方もいると思います。
しかし、国産コンパクトSUVにはない情緒や、ドアを開けてシートに腰掛けた瞬間に広がるカラフルな世界観、そして何気ない交差点をひとつ曲がるだけで思わずニヤリとしてしまう走りの味わい深さは、このクルマでしか手に入らない特別な魅力だと思います。
確かに少し“背伸び”が必要なプライス設定かもしれません。
ですが、その少し背伸びをした先に見えてくる日々の楽しさや彩り、そして「乗るたびに心が豊かになる幸せ」には、数字以上の価値が間違いなくあります。
朝起きて、いつものパンに少し上質なイタリアのチーズを挟むように、いつものコーヒーをエスプレッソにするように、いつもの出勤路やスーパーへの買い出しが、このクルマと一緒なら軽快なステップに変わるはずです。
「道具としての潔さ」と「イタリア流の愛嬌」。
いろいろな意味で味濃いめ、主張が大きいクルマが多いこの時代、飾らない日常を何倍も楽しみたい方に、ぜひとも触れていただきたい一台です。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。























































































