現場での「即断即決」が市販車を変える GR流・ラリーを通じた人材育成の裏側

トヨタ(GAZOO Racing)はラリージャパン2026にて、モータースポーツを通じた人材育成に関する説明会を実施しました。WRCの過酷な現場へエンジニアやメカニックを出向させ、即断即決の判断力を育成。そこで得られた知見を社内に還元し、GRヤリスなど市販車の「もっといいクルマづくり」へ繋げる具体的な仕組みを解説します。

過酷なラリー現場がクルマと人を鍛える WRC参戦で実践する育成プロセス

 GAZOO Racing(GR)はラリージャパン2026において、モータースポーツを通じた人材育成に関する説明会を実施しました。
 
 世界ラリー選手権(WRC)の過酷な現場でエンジニア、メカニック、ドライバーがいかに育ち、その経験が市販車開発にどう還元されているのでしょうか。

GR流・ラリーを通じた人材育成の裏側とは
GR流・ラリーを通じた人材育成の裏側とは

 GRは過酷なラリー競技をクルマづくりと人材育成の重要な実践の場として位置づけています。

 ラリージャパン2026の会場では、GAZOO Racing Companyの高橋智也プレジデントをはじめ、WRCの現場へ出向していたメカニックの服部寛大氏、車両開発企画の行木宏氏が登壇しました。

 ラリー競技は世界各地で開催され、エンジニアやメカニックは短時間かつ決められたレギュレーションの中で車両を仕上げることが求められます。

 この環境で鍛えられた経験を「もっといいクルマづくり」に繋げるため、GRは定期的に社員をWRCの現場へ出向させています。

Mid-size Vehicle Company MS統括部 主幹の行木宏氏

 車両開発企画を担当する行木宏氏は、2012年に入社しプラットフォーム開発などを経て、2021年にRally2車両企画やGR Yaris系車両企画を担当。

 その後、2022年から2024年までTGR-WRT(ワールドラリーチーム)へ出向し、Rally2のプロジェクトマネージャーとして事業や車両企画、開発から生産体制構築、販売後サポートまでを一気通貫で推進しました。2025年1月からはMS統括部にてbZ4Xの製品企画業務を担当しています。

 一方、メカニックの服部寛大氏は2011年に入社し、車両試験課でメカニックやテストドライバーとして経験を積んだ後、2022年から2025年までTGR-WRTへ4年間出向しました。

 Rally1およびRally2車両のメカニックとして、勝田貴元選手の車両などを担当し、足回りやボデー、ミッションなど各部門の実務を経験。

 帰任後の2026年1月からは、社内でも数少ないRally1メカニック経験者として、GRヤリスの開発などに携わっています。

GAZOO Racing Company 凄腕技能養成部エキスパートの服部寛大氏

 高橋プレジデントはモータースポーツの現場におけるスピード感について言及しました。

 開発現場で問題が発生した場合、通常であれば会議を設定して対策を検討しますが、ラリーの現場ではそのような時間はありません。

 現場主導で即断即決し、関係者がその場で解決に向けて動く姿勢が求められます。高橋プレジデントは、このスピード感こそがモータースポーツで培われる最も大きな要素の一つであり、それを市販車開発へ持ち帰ることが会社全体への良いフィードバックになると説明しました。

 行木氏は、WRCの現場で得た経験として「部分最適で見るのではなく、全体を俯瞰して物事を捉えながら現場に入り込み、即断即決していくところ」を挙げました。

 ビジョンとチャレンジを掲げ、チーム力で推進するプロセスを学んだ同氏は、その知見を26式GRヤリスへの採用など他の車両開発チームへの評価計画・データ解析の伝承に活かしています。

 服部氏は、メカニックの視点から現場の厳しさを解説。限られた時間の中でいかに正確かつ効率よく作業をこなすかが求められるため、「自分の中で即時即決、即断して作業しないといけない」という状況下で技術が磨かれたと語ります。

 また、ドライバーファーストの取り組みや目標設定の在り方も学んでおり、現在は実際のラリー現場での破損状況や海外での乗られ方、必要なセットアップの知識を社内の車両開発に還元しています。

GAZOO Racing Company プレジデントの高橋智也氏

 メカニックやエンジニアだけでなく、ドライバーの育成も体系化されています。GRは「ラリーピラミッド」という構造を構築し、底辺の拡大からトップカテゴリーへのステップアップを支援しています。

ピラミッドは下位から「TGR ラリーチャレンジ」「MORIZO Challenge Cup」「全日本ラリー選手権」と続き、その上にWRCの下位カテゴリー、そして最高峰のRally1が位置しています。

 TGR-WRTはRally1において、GRヤリスRally1で5組が参戦しており、豊田章男TGR-WRT会長やラトバラ代表のもと、勝田貴元選手やセバスチャン・オジエ選手などが勝利を目指しています。

 一方で若手育成を担うのが、2015年に開始された「WRCチャレンジプログラム」です。

 これは世界で活躍できる日本人選手を発掘・育成するためのプログラムであり、Rally4からRally3、そしてRally2へと段階的にステップアップしながら欧州各国の選手権で経験を積みます。

 1期生の勝田貴元選手は現在、TGR-WRTでトップカテゴリーに参戦。続く2期生の山本雄紀選手は2024年からRally2へ昇格し、2026年にはRally2でWRCシリーズ、そして今回のラリージャパンにも参戦。

 3期生の松下拓未選手と後藤正太郎選手も、2026年からのRally2昇格に向けて欧州各地で経験を積んでいます。

 さらに4期生、5期生と継続的にプログラムが運営されており、長期的な視点での人材育成が行われており、高橋プレジデントは、ライバルがいる競争環境が車と人を鍛えるとして、今後もこの育成の枠組みを維持・発展させていく方針を示しました。

「WRCチャレンジプログラム」の1期生・勝田貴元選手は現在、TGR-WRTでトップカテゴリーに参戦
「WRCチャレンジプログラム」の1期生・勝田貴元選手は現在、TGR-WRTでトップカテゴリーに参戦

※ ※ ※

 GRは、ラリーというモータースポーツの現場を、車両開発と人材育成を両立させる実践的な環境として活用しています。

 極限の状況下で求められる「即断即決」の判断力と、「全体俯瞰」「ドライバーファースト」といった視点が、出向したメンバーたちを成長させています。

 そして、彼らが持ち帰った知見や経験が社内の各部署へフィードバックされることで、技術の伝承が進み、最終的に市販車の「もっといいクルマづくり」へと結実する仕組みが機能しているのです。

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Writer: くるまのニュース編集部

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