経団連も「軽自動車」並へ税負担軽減を提言 自工会と足並み揃えた…だけど国に忖度?
燃料の課税に触れないのは問題
経団連の提言では、燃料の課税に触れていないのも問題です。ガソリン1リットルには53.8円のガソリン税、2.8円の石油税、さらに消費税も上乗せされます。今はガソリンが高額で1リットル当たり平均150円とすると、そこから税金を差し引いたガソリン本体の価格はわずか82.29円です。
ディーゼルの軽油にも税金が含まれますが、ガソリンに比べると安いです。従って燃料本体の価格を比べると、常にガソリンよりも軽油の方が高額になり、価格は逆転してしまいます。
いずれにせよ、燃料に含まれる税金は、クルマを使う限り常に納めねばなりません。これも元・道路特定財源なので、撤廃を主張する必要があります。
このような購入後に何年間も納め続ける極端に高額な税負担を軽減できるなら、クルマを買う時は、少し高い税金を支払っても構わないと考えるユーザーも多いでしょう。そうなればクルマにお金を掛けられないユーザーは、安い中古車を買うことで(当然、購入時の税金も安い)、クルマ関連の出費を総合的に抑えられます。
今はそれが逆で、売れ筋車種の大半はエコカー減税に該当しますから、新車は比較的安く手に入ります。しかし所有する段階の税金が高いのです。特に燃料の課税は高額です。実用燃費が1L当たり10kmで、ガソリン価格が150円とすれば、1年間に1万kmを走ると15万円のガソリン代を負担します。この内の6万7710円が税金です。
経団連がこの点を指摘して、購入後の税額を安くする論調にならないのは、あくまでも業界寄りになるからでしょう。根底の部分では、国の税収を確保する忖度も働いていると判断されてしまいます。
購入時における自動車税の月割り課税を廃止すべきという主張も、クルマを売ることを優先した稚拙なものです。
仮に月割り課税を廃止すると、軽自動車税と同じように購入の翌年度からの課税になります。これでは税負担の不公平が生じます。3月に登録すれば翌年度(つまり翌月の4月)には納税通知が送られて自動車税を納めますが、4月に登録するとその翌年度(つまり1年後の4月)からの負担になり、約1年分の自動車税を節約できます。4.6リッターエンジンの「ランドクルーザー」などは、年額8万8000円と高額です。どの月に登録するかにより、自動車税の負担が大きく変わるのでは不公平でしょう。
そうなると4月の登録を希望するユーザーが増えるかも知れません。ただし、今度は販売会社が困ります。決算期に大幅な値引きをする目的は、3月内に登録を行なって決算に貢献できるためなので、4月登録では決算値引きの意味がなくなります。月割り課税を廃止して購入の翌年度からの納税にすると、税負担の公平性が失われ、販売現場も混乱します。経団連の主張とは思えません。
ちなみに、軽自動車税が月割り課税を行わずに購入の翌年度とした理由は、損失が生じるのを避けるためです。軽自動車税は乗用車の場合、今は年額1万800円ですが、以前は7200円でした。この税額で月割り課税を実施すると、税収以上に事務手続きの費用が高くなってしまいます。本来は公平を保つために月割りで徴収すべきですが、徴税が損失を招くから月割りを行っていないのです。
従って自動車税が軽自動車税並みに安くなれば月割りが廃止されますが、経団連がそこを前提にしているなら、あえて主張する必要はありません。経団連の主張では、自動車税は現状の税額で、なおかつ月割りを廃止しろと言っていますから、前述の不公平と販売店の困惑が生じます。
経団連の自動車の税金を安くしろという主張は、基本的には正しいですが、もっとユーザーの立場で自動車税制を考えていただきたいです。いろいろな人達の意見を聞くことも大切でしょう。月割り廃止の件などは、複数の人がチェックすれば指摘されて解決する課題です。もう少し慎重に取り組んで欲しいと思います。
【了】
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。