国内販売圧勝のホンダ「N-BOX」 独走が続く人気の理由とは
軽に力を入れるホンダ、普通車に力を入れるスズキ
ちなみにスズキは、軽自動車市場の先行きが不透明なこともあり、今は小型/普通車にも力を入れています。小型/普通車の販売比率が18%になり、軽自動車は82%に下がりました。スズキとホンダは取り組み方が対称的です。
またN-BOXでは、販売会社が在庫を持ち切れず、自社で届け出を行って、実質的に未使用の中古車として流通させた車両も相応に見られます。走行距離が30km以下の中古車がそれです。ホンダカーズでは「スーパースライドシートは、ホンダが力を入れて開発したが、価格が高いこともあって販売比率が高まらない」という話も聞かれます。
このほか国内市場において、軽自動車の販売比率が35~38%に達した理由としては、日本車の全般的な価格上昇があります。安全装備や環境性能が高まり、ミドルサイズミニバンのステップワゴンでも、売れ筋の価格帯は260万円以上です。200万円以下で買えるのは、140~180万円が売れ筋の軽自動車と、150~200万円のコンパクトカーです。
同じ価格の軽自動車とコンパクトカーを比べると、車内の広さ、内装の質で軽自動車の方が勝ることが多く、車種によっては安全装備も優れています。また軽自動車は国内のユーザーを対象に開発され、海外向けに造られることの多い小型/普通車に比べると、デザインを含めてさまざまな部分で共感を得やすいです。
このような事情から軽自動車に魅力を感じて車種選びを始めると、多くのユーザーが、N-BOXの魅力に気付きます。
以上のようにN-BOXが好調に売れる背景には、日本車の商品開発が海外向けになって魅力を下げたこと、同じ価格帯のコンパクトカーがいまひとつ魅力に欠けること、ホンダ車ユーザーを中心に「結局はN-BOXしかない」と乗り替えていることなどがあります。N-BOXが優れた商品なのは確かですが、ほかの日本車の努力不足も影響しているのです。N-BOXの独走は、いつまで続くのでしょうか。
【了】
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。