なぜスバルはハイブリッドと名乗らない? 「e-BOXER」の魅力と開発秘話とは【PR】
スバルの「e-BOXER」は、「フォレスター」や「XV」、「インプレッサスポーツ」に採用されている電動化ユニットです。しかし、なぜ分かりやすい「ハイブリッド」と名乗らないのでしょうか。その秘密に迫ります。
スバルの電動化を担う主力ユニット「e-BOXER」
1966年に登場した「スバル1000」以来、50年以上に渡ってスバルの水平対向エンジンは進化・熟成を遂げてきました。これまでさまざまなユニットが世に出てきましたが、このエンジンとモーターを組み合わせたのが「e-BOXER」です。
「e-BOXER」の初採用は2013年に登場した先代の2代目「XV」に追加された「XVハイブリッド」ですが、当時はe-BOXERと呼んでいませんでした。
本格的な導入は2018年に登場した現行の5代目「フォレスター」からで、このモデルから「e-BOXER」と名乗るようになり、その後、僅かに遅れて現行XVにも追加されました。
どちらのモデルも導入当初は上級グレード(アドバンス)のみの展開でしたが、年次改良で他のグレードにも拡大。現在はフォレスター/XV共に主力ユニットとなっています。
なお、2020年10月には「インプレッサスポーツ」にもe-BOXERが設定されました。
シンメトリカルAWDを採用しながら電動化を実現したe-BOXER
現在のe-BOXERは、2リッター水平対向エンジン(自然吸気)+リニアトロニック内蔵のモーター+バッテリーを左右対称・一直線上にレイアウトに配置するという基本構造はXVハイブリッドと同じですが、システムは小型化と効率化のために多くの部品が刷新されています(バッテリーはニッケル水素からリチウムイオンに変更)。
e-BOXERは機構的には「パラレルハイブリッド」で、メインはエンジン、モーターはサポートというシステム(クラッチ操作によりEV走行も可能)です。
開発時はさまざまなシステムを検討したそうですが、水平対向エンジン+シンメトリカルAWDの独自レイアウトを犠牲にすることなく電動化させるためには、構造が単純で重量増も抑えられるこのシステムが最適であると考えたそうです。
スバルのe-BOXERは環境性能だけじゃなく走りも楽しい!
ただ、ひとつ疑問なのは、なぜ多くの人が聞き慣れている「ハイブリッド」というネーミングではなくe-BOXERと名付けたことです。
その理由は「モーターを何のために使うのか?」というところにあります。開発者はこう語っています。
「我々は電気の力を『燃費/環境性能』のためだけでなく、『走りの愉しさ』をさらに引き上げるために使おうと考えました」。
実際に走らせると、他社のハイブリッドのような「電動車感」はなく、基本的にはガソリン車と同じですが、ただのガソリン車ではありません。
SIドライブ「I(インテリジェント)」では、水平対向エンジン特有の発進時のモタツキが少なく、そっと背中を押してくれるような自然なアシストで、例えるならば排気量が200ccくらいアップしたかのようなゆとりを実感。
一方、SIドライブ「S(スポーツ)」だとアクセルを踏んだ瞬間からグッと立ち上がるトルク感と力強さで、例えるならば「電動ターボ」のようなイメージです。どちらもドーピングのようなアシストではなく自然なフィーリングです。
ハイブリッドらしからぬ自然なアシストもe-BOXERの魅力
「モーターの出力(13.6ps/65Nm)やバッテリー容量(4.8Ah)などは他社と比べると小さいですが、これにも理由があり『あれもこれも』と欲張らずに、多くの人が使う実用域での性能にこだわったためです」。
ブレーキはアクセルOFFや制動時に減速エネルギーで発電し、そのエネルギーを充電する回生協調ブレーキを採用しています。
一般的に回生協調ブレーキはブレーキフィールや減速度が安定しないケースが多いのですが、e-BOXERはガソリン車とほとんど変わらないフィーリングです。この辺りもパワートレインと同じく「電動車感」は感じません。
「安心と愉しさ」その一つの答えがスバルの「e-BOXER」だ
そして、実はフットワークにも違いはあります。e-BOXER化により車両重量は増えているものの、バッテリー搭載でいい方向に向いた前後バランスや低重心化などによりハンドリング面でネガティブさは感じません。
むしろ、重さを活かしたシットリした足の動きなどから動的質感はガソリン車より高いと思ったくらいです。
そんなe-BOXER、じつは価格もポイントのひとつです。電動化モデルはガソリン車に対して高価になりがちですが、フォレスターで比較してみるとガソリン車(改良前のモデル)との価格差は何と10万円以下。
アイサイトと同じように「普及してこそ」という考えによる戦略的な価格設定なのでしょう。
スバルのクルマづくりの大きな柱は「安心と愉しさ」ですが、それは電動化されても変わることはありません。そのひとつの答えがこの「e-BOXER」なのです。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。