速く走るには溝は要らない? 新品でも「つるつる」スリックタイヤ、一般タイヤと何が違う?

レース用タイヤは気温も重要、雨天なら雨専用タイヤ

 スーパーGTの参戦チームにレーシングタイヤを供給している横浜ゴムの方に、なぜ気温が絡んでくるのか聞いてみました。

テスト走行後にタイヤの状況を確認するピットクルー

「スリックタイヤは表面のゴムに熱が加わり溶けることで、絶大なグリップ力を得ています。こうすることで一般的なタイヤよりも遥かに高いグリップレベルを実現させています。しかし、気温が低い場合、タイヤ表面の温度が上がらず、結果スリックタイヤの持つグリップ力を発揮するまでに時間を要してしまいます」

 レーシングタイヤの性能を発揮させるためには、温度管理が大切です。レースの戦略に応じた性能を最大限に発揮するために、タイヤのゴムに必要な温度の幅(温度レンジ)がきちんと想定されています。そのため想定温度より路面温度が低くても高くても、タイヤは狙い通りのグリップを発揮できないのです。

 また天候に関しては、雨が降ったら必ずウェットタイヤに履き替えると思いがちですが、そうとも言い切れないのがレースの難しくも興味深いところです。

 肝心なのは雨が降っていても、雨量が少なく路面とタイヤの間に水が入りにくい状況であれば、タイヤが路面に接地するのでスリックタイヤが選択される場合もあるのです。

 またウェットタイヤにも種類があります。「インターミディエイトタイヤ」は雨量が少ないときに履くウェットタイヤで、溝が浅い分だけ排水性は劣りますが、ゴムのよれが少なくて済みます。

 最近ではタイヤメーカーがコスト高騰を防ぐ観点から、トレッドパターンの性能でゴム部分の剛性をカバーし、一種類のパターンと溝の深さで様々な雨量に対応する傾向が主流になってきました。その代わりゴムの性質や内部の構造で特性を変えることができます。

 現在、スーパーGTを勝つために必要な要素は「マシンの性能調整」(BoP:バランス・オブ・パフォーマンス)と「チーム力」、そして「ドライバーの能力」と「タイヤ」の4つだと言われています。

「黒くて丸いゴム」であるタイヤには、実はひとことでは語り尽くせないほどの魅力が詰まっています。特にモータースポーツの世界となると、コンマ何秒を争うわけですから、タイヤの選択ひとつで順位が大きく左右されてしまうのです。

 レーシングチームがどのタイヤを選択したか等にも注目してみると、また違ったモータースポーツの楽しみ方ができると思いますよ。

【了】

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Writer: 山田弘樹(モータージャーナリスト)

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。レース活動の経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆中。並行してスーパーGTなどのレースレポートや、ドライビングスクールでの講師も行う。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

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