スバルの「新型セダン」は何がスゴいのか? 「謎のハイパフォX」がついに登場! スバルが目指す次世代モデルとは

スバルが新たに作った謎の4ドアセダンこと「ハイパフォーマンスXフューチャー・コンセプト」。どのようなモデルなのでしょうか。

「ハイパフォーマンスXフューチャー・コンセプト」ってなに?

 2024年5月に開催されたスーパー耐久シリーズ最長となる富士24時間の場でお披露目されたスバルの次期開発車両「ハイパフォーマンスXフューチャー・コンセプト(通称:ハイパフォX)」。

 この時、総監督の本井雅人氏から「デビューは7月のオートポリス」と語られましたが、公言通りとなりました。

 そんなデビュー戦はどうだったのでしょうか。

この取り組みの目的は「未来のスバル」のため
この取り組みの目的は「未来のスバル」のため

 今回は「クルマの素性を探る」が目的で、メカニズムの多くは「量産+α」の内容ですが、予選はST-2相当のタイムを記録するなどポテンシャルの高さを見せました。

 しかし、決勝はデビュー戦ならではの数々のトラブルが発生。具体的には足回りのトラブル(ダンパーの一部がホイールと干渉)やエンジントラブル(スロットルを上げても出力が上がらず)と言ったトラブルで、その修復・対策のために長時間のピットインを強いられました。

 最終的にはチェッカーは受けられたものの、規定周回が足りず完走扱いにはなりませんでした。

 結果だけ見ると「ほろ苦いデビュー戦」となりましたが、この取り組みの目的は「未来のスバル」のため。

 そう考えると「走る実験室」として様々な課題が量産を超える状況でリアルに確認できたわけで、ここからマシンやエンジニアがどのように成長していくかが大事であり、豊田章男会長の言葉を借りれば「壊してくれてありがとう」なのです。

 そんなハイパフォXですが、今後どのようなモデルに育てていこうと考えているのか。

 2024年から監督兼チーフエンジニアを担当する伊藤奨氏に色々と聞いてみました。

―― 伊藤さんはBRZ CNFコンセプトにも携わっていたと聞きましたが、この2年間で何か変わった感覚はありますか?

 伊藤:一番の収穫は、各領域の枠を壊して「クルマ全体」を見る目が養われたことですね。

 その結果、みんなが「領域ベスト」ではなく「クルマベスト」の考え方になっています。

 それを証明するのが富士スピードウェイの予選タイムで、初年度に対して今年は3秒タイムアップ。これは総合力によるモノです。

―― つまり、BRZ CNFコンセプトは“やり切った”からマシンを変えるのでしょうか。

 伊藤:正直に言えば、まだまだやることはあったと思います。

 私としては「こんな事をやりたい」、「アレを試したい」と言う想いはありますが、今後のスバルの中で、「どのような技術を高めていく必要があるのか?」と言うことを含めると、車両を変える意義はあると言う判断になりました。

―― つまり、スバルの真骨頂ともいえる「ターボエンジン」と「AWD」ですね。

 伊藤:そうです。ただ、BRZ CNFコンセプトの開発で得た技術やノウハウ、考え方はハイパフォXにしっかりと継承しています。

 弊社は先日のマルチパスウェイワークショップで、藤貫(哲郎CTO)が「将来も水平対向エンジンを残していきたい」と発表しました。

 そのためには、よりハードルが高いターボエンジンで挑戦すべきだと言う認識です。

 出力の高いエンジンの環境対応ができれば、将来も「楽しいエンジン」が残せると信じています。

―― 富士でのお披露目の時に、特別にアクセルを踏ませてもらいましたが、NAエンジンのようなレスポンスと心地よいサウンドがとても印象的でした。

 伊藤:ネットなどでは「BRZ CNFコンセプトの音いいよね、カッコいいよね」と言っていただけていますが、ハイパフォXもそれに負けないくらい、「バリバリ」、「バンバン」行きたいと思っています。

―― AWDに関してはどうでしょうか。

 伊藤:現在、電動車を中心に前後独立したモーターを活用したシステムが主流です。

 弊社も開発を行なっていますが、まだまだプロペラシャフト付きAWDの良さを再現できていません。

 そこでハイパフォXの開発にはBEVチームのエンジニアも入ってもらい、そこで培ったノウハウを活かしてもらうことで、電動車でもスバルならではのAWDが実現できると思っています。

―― その一方で、この取り組みは「将来のBEVを含めた市販車へのフィードバック」もミッションもあります。この辺りについて解はどうでしょうか。

 伊藤:電動化によりクルマは「大きく」、「重く」なりがちですが、当然クルマへの入力も大きくなります。

 それでも『スバルらしいよね』と言ってもらうためには、シャシーはどうあるべきか。

 サーキットはクルマに対する入力は相当厳しいので、間違いなく活かせると思っています。

―― BRZ CNFコンセプトは「次期BRZの先行開発」と言った目標がありましたが、ハイパフォXはどのような目標を掲げていますか。

 伊藤:まずは「AWDだけどグイグイ曲がって思い通りに走れる上で、トラクションを安心して掛かられる」ですね。

 現状はかなりアンダーが強いので(汗)。速さの部分では2.4Lターボなので、当然お客様からの期待もあると認識しています。

 これまでは28号車のGR86、55号車のマツダ3に追いかけられる立場でしたが、ハイパフォXはバンバン追いかけ、そして追い抜く気持ちでやります。

 更に言えばGT4車両が参戦するST-Zクラスとも戦えるテンシャルを身に付けたいですね。

―― 28号車、55号車共に、量産車とは違うシステムや構造、つまり先行開発をリアルに行なっています。対してBRZ CNFコンセプトは量産車の延長線から抜け出せていないような気がしましたが、その辺りの考えは。

 伊藤 そこから抜け出そうと言うのは強く考えています。私自身も昨年までの活動の中で、「みんな抑えている所、あるよね」と言うのは感じていました。

―― 以前、藤貫CTOに話をした時に、「メンバーには『もっとやれ!!』と言ってますよ」と聞きました。

 伊藤:確かにそのようにハッパを掛けられています。ただ、目的と手段を混同してはダメなので、色々なトライを行ない必要なら大きな手を加えようと。

 まさに今後どのようなストーリーを作れるか考えている最中です。

―― 本井総監督からも「社内の講演会でドライバーの本音を聞き、若いメンバーの発言内容が変わってきた」と聞きました。

 伊藤:最近は「できる? できない?」の議論ではなく「やるんだ!!」と言う気持ちのほうが大きいですね。

 今回もトラブルはありましたが、失敗ではなく進化の過程だと思っていますので、みんな前向きです。

―― 今後の進化、どのような事を計画しているでしょうか。

 伊藤:現状はエンジンと駆動系(=AWD)の制御が中心ですが、今後は各性能、シャシー、ブレーキ、空力などもアップデートしていくのはもちろんですが、より大きく、より速く進めていけるように注力していきます。

 この辺りに関しては、今後担当者から説明する機会も設けますので、叱咤激励のほうもよろしくお願いします。

2024年から監督兼チーフエンジニアを担当する伊藤奨氏
2024年から監督兼チーフエンジニアを担当する伊藤奨氏

※ ※ ※

 ちなみにBRZ CNFコンセプトの開発で培った技術は、改良されたBRZの量産モデル(D型)の「SPORTモード」にフィードバックされています。

 当然ハイパフォXもそれを期待しますが、このマシンは「次世代スバルの走りを探求」の実験車両です。

 つまり、ここで培った技術・ノウハウは、個々のモデルではなく、将来発売される全てのスバル車にフィードバックされる事を意味します。

 かなり壮大なプロジェクトですが、やると決めたからには、最後までやり切ってほしいです。

【画像】かっこいい!これが「凄い4ドアセダン」です。(30枚)

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Writer: 山本シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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1件のコメント

  1. 低重心化が難しい構造上コーナリングで前置き直列エンジンに劣るフロントボクサーで良くそこまで究められるよなぁ
    不可能に挑戦する変態性故か、それとも他メーカーがコーナリングを究められていないからなのか…

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