「空飛ぶクルマ」いつ実現可能? 日本は近未来モビリティで世界をリードできるのか?

空飛ぶクルマが量産化されるまでのハードルとは

 空飛ぶクルマは、いつ、どのように実用化されていくのでしょうか。

 日本の場合、経済産業省が「空の移動革命に向けた官民協議会」を2018年9月から2022年2月まで合計8回開催しています。

 最終的に示された「空の移動革命に向けたロードマップ」(改訂版)によると、2022年度から大阪万博がある2025年度にかけては「試験飛行から商用運航の開始」とし、その後は2020年代後半に向けて「商用運航の拡大」、さらに2030年代以降に「サービスエリア、路線・便数の拡大」という流れを想定しています。

ホンダが開発を進める「eVTOL」
ホンダが開発を進める「eVTOL」

 使用されるケースとしては、都市部や都市と郊外を結ぶ移動、離島や山間地域での移動、
そして救急に係る移動が考えられています。

 こうした産学官連携による一連の協議を俯瞰(ふかん)してみると、最初は海外で一気に進むドローン(空飛ぶクルマ)の実用化に向けた動きに対して、日本が出遅れまいとする雰囲気がありました。

 それが直近では、「必要なケースをしっかり捉えて、現実的な対応をしていこう」という姿勢に変わってきているように感じます。

 こうした議論の変化は、自動運転やMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)でも同じに思えます。

 議論の全体像として、目的は「社会課題の解決」と「産業競争力強化」の大きく2本立てなのですが、詳細な議論に入ると「技術開発」と「法規制対応」などの深堀りが優先され、「事業性を踏まえたうえでなぜ必要か?」という出口戦略に対しての議論が“帳尻合わせ”になりがちです。

 そのため、さまざまな実証試験をやっても、最終的には実際の需要とマッチせずに、いわゆる「実証のための実証」で終わるケースが数多くあるのが実状です。

 空飛ぶクルマの場合、自動運転(や地上で)のMaaSと比べると、高い安全性と飛行性能を担保したハードウエアを適格な価格で量産するまでのハードルがとても高いといえるでしょう。

 ところが、空飛ぶ“クルマ”という表現を使うため、一般的なイメージとしては自動車産業とのつながりが強く、そのため自動車産業が国の主体産業である日本には空飛ぶクルマのハードウエア研究開発や販売においてグローバルで優位に立てる、というイメージを持つ人がいるのかもしれません。

 しかし、航空産業を考えれば、日本で使われている飛行機やヘリコプターは欧米など海外製が主流で、航空に係る日系企業は旅客や貨物などのサービス事業に集約されているのが実状です。

 そうした日本での現実を踏まえると、日本製空飛ぶクルマは、ひとつの方法論ですがそこにこだわりすぎず、既存の航空産業に近いかたちでのサービス事業を優先することに重きを置くことをより深く議論しても良いのではないでしょうか。

 実際、ホンダは2021年9月に「Honda eVTOL」の技術詳細を明らかにした際、(EVのような)オール電化する電動化は、(当面の間の技術において)バッテリー容量による航続距離が(かなり短いという)課題がある」と指摘し、ジェットエンジンを発電機として使うモーター駆動を想定しています。クルマでいうならば、シリーズハイブリッドに相当します。

 ホンダは、量産型のホンダジェット事業があり、空を飛ぶことの難しさを十分に理解したうえで、こうした空飛ぶクルマの現実解を示したといえるでしょう。

 いずれにしても、空飛ぶクルマについては「誰が、いつ、どのように使うのか?」という目的をしっかりと踏まえ、製造業として、またはサービス業として成立するビジネスモデルを描くという、事業設計の基本中の基本を常に考えることが重要です。

 すでに空飛ぶクルマは単なる夢物語のステージは終わっており、事業としての高い精度が求められる時代に入っているのだと思います。

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Writer: 桃田健史

ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。

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