なぜ日本の「幼稚園バス」は安全性劣る? 韓国は子供の安全重視も… 背景には幼稚園団体の「認識のズレ」あった?

なぜ韓国は安全強化出来て…日本は遅れているのか…原因は全日本私立幼稚園連合会?

 ここで疑問に思うことがあります。世界最高の信頼性と先進の安全装備を備えたクルマを多数、国内外に送り出している日本の自動車メーカーがなぜ幼児用ベルトを開発できないのでしょうか。

 前述の幼児専用車の車両安全性向上のためのガイドラインでは以下のように記されています。

「現状、幼児専用車に装備される幼児用座席に適した座席ベルトが存在しないことから、今後、幼児専用車の使用実態に配慮した、幼児自らが正しく、かつ、容易に着脱できる、座席ベルトの開発を自動車製作者等に促す」

 このガイドラインが出されてから間もなく10年が経過しますが、いまだに幼児専用車に適したシートベルトは実装されていません。

 その理由について国交省や幼稚園バスを製造する自動車メーカーに聞いたところ、驚きの回答が返ってきました。

 ・幼児の使用に適した幼児用座席ベルト(ELR2点式)は開発が完了
 ・着脱に関しても3歳と6歳の園児数名でテストを実施。使用に問題がないことも確認されている。

 時間をかけて数多くのテストをして最良と考えられる幼児用ベルトはすでに開発済みだったのです。

 しかしながら、全日本私立幼稚園連合会に代表される幼稚園団体が幼児バスへのベルト装着に消極的で実装に至ってない現状があるのでした。

 2012年から開催されているヒアリングにおいて連合会のスタンスは現在も変わっていないといいます。

 ・幼稚園側としては、安全面について現状の車両で特に不安、不満はない。
 ・ベルトを装着するメリットよりデメリットの方が大きい
 ・コストがかさむので補助金を出してほしい
 ・ベルト脱着でスタッフの手間がかかるし、渋滞の原因にもなる。周辺住民からのクレームも来る。
 ・津波にのまれたり、踏切で故障して立ち往生したり、車両火災が発生した際、すぐに脱出できず危険だ

これが幼児専用車に適用される要件
これが幼児専用車に適用される要件

 すべての乗り物でシートベルトを例外なく装着することは命を守る習慣を作るという教育的観点からも意義が大きいと思われますが、幼稚園側はスタッフの手間や周辺からのクレーム、設置コストのほうが重要と考えているようです。

 幼児の体を衝撃から守るベルトが全く存在しない現在の幼児バスでは大きな事故の際、子どもたちが車外に放出されて死傷する危険も十分にあります。

 急ブレーキだけでも座席から転げ落ち、床や金属製の支柱などに頭を打ち付けて大けがをするかもしれません。

 津波や車両火災など万が一の脱出性を心配するより、日常の衝突安全性を重視するべきではないでしょうか。

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Writer: 加藤久美子

山口県生まれ。学生時代は某トヨタディーラーで納車引取のバイトに明け暮れ運転技術と洗車技術を磨く。日刊自動車新聞社に入社後は自動車年鑑、輸入車ガイドブックなどの編集に携わる。その後フリーランスへ。公認チャイルドシート指導員として、車と子供の安全に関する啓発活動も行う。

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