なぜ軽のターボ車のボンネットから“穴”が消えた? エアインテーク装着車が減少している訳

軽自動車はパワーを補うために大半のモデルにターボ車が設定されています。かつての軽ターボ車はボンネット上にエアインテークを備えていることが多かったのですが、最近のモデルでは減少しています。それはなぜなのでしょうか。

軽のターボ車は多く存在するも、エアインテークを備えるモデルは消滅!?

 軽自動車は車両重量の割に、エンジン排気量が660ccと小さいです。軽乗用車の販売総数の50%以上を占めるスーパーハイトワゴンでは、エンジン排気量100cc当たりの車両重量が140kg前後に達します。

ワゴンRは2代目までボンネットにターボの穴があいていた!
ワゴンRは2代目までボンネットにターボの穴があいていた!

 一方、トヨタ「ヴォクシー/ノア」のような2リッターエンジンを搭載する背の高いミニバンでも排気量100cc当たりの車両重量は約80kgですから、軽自動車ではエンジンの負荷がとても大きいといえるでしょう。

 そこで軽自動車は、エンジン排気量が550ccの時代から、ターボ車を多く用意。1980年代後半には、大半の軽自動車にターボエンジン搭載車が設定されていました。

 国産車の場合、最近の小型/普通乗用車ではターボエンジン搭載車が減っていますが、エンジン排気量の小さな軽自動車では今も昔も豊富です。

 そして、軽自動車のターボエンジン車の新旧モデルを比べると、最近はボンネット上にエアインテーク(空気の取り入れ口)を装着する車種が減っています。

 それは一体なぜなのでしょうか。

 例えばスズキ「ワゴンR」の場合、1990年代に発売された初代と2代目のターボ車はボンネットの上にエアインテークが装着されていましたが、2003年に発売された3代目では廃止されています。その理由は、インタークーラーと取りまわしを変更したからです。

 初代、2代目ワゴンRでは、エンジンの上部に装着されるインタークーラーの上側にエアインテークが備わり、直接風を当てることで冷却効果を高めていました。

 これが3代目になると、フロントグリルの一部にエアダクトを装着して、インタークーラーまで空気を導く構造に変更。

 ボディの前面で受けた空気をインタークーラーに導入するので、ボンネット上にエアインテークを備える必要はありません。

 ワゴンRのライバル車となるダイハツ「ムーヴ」も同様で、1990年代に発売された初代と2代目はターボ車のボンネット上にエアインテークを備えていました。これが2002年に発売された3代目からは装着されていません。

 エアインテークを廃止した背景には、複数の理由があります。もっとも大きな影響を与えたのは、歩行者とボンネットが衝突したときに頭部を保護する機能です。

 道路運送車両法に、歩行者頭部保護基準が盛り込まれたのは2005年ですが、各メーカーともそれ以前から対策を図っていました。

 3代目ムーヴでは、2002年の発売時点でボンネットやボンネットのヒンジ、ワイパーピボットなどに衝撃を緩和する設計を盛り込んでいます。これにともなってエアインテークは廃止されています。

 また2005年以降の歩行者頭部保護基準を満たすには、エンジンの上端とボンネットの間に十分な空間が必要とされました。これは頭部が衝突したときに、ボンネットを歪ませて衝撃を吸収するためです。

 この要件を満たすためにエンジンの上部に空間ができると、エンジンを冷却するときも有利になります。つまり歩行者頭部保護基準の適用により、エアインテークのニーズが薄れた面もあるわけです。

 そのほか2000年以降はターボ車が普及して、珍しい存在ではなくなったことも挙げられます。

 エアインテーク自体は、1960年代から高性能なスポーティカーに採用されてしましたが、1980年代にはターボ車を中心に装着車が急増して高性能さをアピール。2000年代に入ると、特別な印象も薄れて装着車が減っているのです。

※ ※ ※

 現時点でエアインテークをボンネット上に装着しているターボ車は、スバル「WRX S4」や「レヴォーグ」、日産「GT-R」といった一部のモデルです。

 WRX S4とレヴォーグは水平対向4気筒ターボエンジンを搭載しており、エンジンの上部にインタークーラーが装着され、冷却効果を高めるためにボンネット上にエアインテークを備えています。

 そしてWRX S4とレヴォーグではエアインテークの設計も工夫され、歩行者保護エアバッグも装着。安全対策を講じたうえで、エアインテークを装着しているのです。

 ボンネット上のエアインテークは、軽自動車に限らず装着車が減っています。安全性やデザイン性に加えて、燃費の向上も影響を与えています。

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Writer: 渡辺陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。

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