なぜテスラは独自充電規格を開放する? マスク氏が考える今後のテスラ社とは

テスラの大きなメリットのひとつである「スーパーチャージャー(急速充電器)」ですが、CEOのイーロン・マスク氏が、「他社製EVにも開放する」という旨の発言をしました。もし、これが実現するとどのようなメリットがあるのでしょうか。

テスラオーナーにとっては欠かせない「スーパーチャージャー」

 現地時間2021年7月26日におこなわれた2021年度第2四半期の決算説明会で、テスラは過去最高となる11億ドル(約1200億円)もの純利益を記録し、なおかつ同じく過去最高となる20万1304台の納車をおこなったことを発表しました。

 相変わらず好調のテスラですが、この決算説明会で業績以外に注目を集めたのが「テスラの『スーパーチャージャー』を2021年後半にも他社製電気自動車(EV)に開放する」という発表でした。

 これまで独自の充電インフラを展開していたテスラですが、なぜ他社のEVに開放する動きとなったのでしょうか。

日本では難しい? テスラが展開する大規模「スーパーチャージャー(急速充電器)」施設のイメージ
日本では難しい? テスラが展開する大規模「スーパーチャージャー(急速充電器)」施設のイメージ

 この発表には伏線があります。7月上旬にイーロン・マスク氏はTwitter上にてユーザーからの質問に答えるかたちで、スーパーチャージャーを他社製EVに開放するということを示唆しました。

 Twitter上では具体的な方法などについて明らかにされませんでしたが、今回の決算説明会における質疑応答で、株主からの質問をうけ、具体的な時期や方法などについて明らかにされました。

 テスラの発表によると、テスラのアプリをダウンロードし、該当のスーパーチャージャーを選択することで簡単に利用できるといいます。

 課金などもアプリを通しておこなわれ、利用する時間帯や、充電時間の長さに応じて料金が変動する仕組みを備えているとされています。

 スーパーチャージャーは、各社が展開するEVのなかでも電池容量の大きなテスラ車の充電時間を短縮するために開発された独自規格で、モデルにもよりますが、30分で80%程度まで充電することが可能です。

 全世界で2500以上のスーパーチャージャーステーションが存在し、その数はさらに増え続けています。テスラの公式ウェブサイトによると、日本には8月1日現在で32のスーパーチャージャーステーションがあり、11のステーションが近日オープン予定とされています。

 ガソリンスタンドに比べればその数は決して多くはありませんが、スーパーチャージャーは、テスラユーザーにとってはすでになくてはならない存在となっています。

 EVの大きなネックのひとつである充電時間が、このテスラのスーパーチャージャーによって短縮されるのであれば、ほかのEVユーザーにとっては朗報といえるかもしれません。

 しかし、日本においては、いくつかの問題もあるようです。

 ガソリンは、レギュラーやハイオク、軽油といった油種の違いこそありますが、ガソリンスタンドのノズルと、各車種の給油口は基本的に統一されており、ガソリンスタンドによって給油ができないということはまずありません。

 しかし、EVでは充電ステーションにある充電器の口と車両側の給電口の規格が完全に統一されていません。

 急速充電に関していえば、「CHAdeMO(チャデモ)」という日本が主導して設計された規格と、欧州などで普及が進む「コンボ・チャージング・システム(CSS)」、そしてテスラのスーパーチャージャーなどがあり、さらには「GB/T」と呼ばれる中国の規格もあります。

 加えて、各規格は定期的にアップデートをおこなっており、激しい覇権争いを繰り広げています。

 このように、現状の急速充電器は複雑な状況となっています。もし、スーパーチャージャーが他社製EVに開放された場合、この規格の違いをどう解決するのかという点が課題となります。

 テスラは、日本で主流のCHAdeMO規格の急速充電器でも充電ができるように、CHAdeMO規格をテスラ独自規格へと変換するアダプターを供給しています。

 テスラが、わざわざアダプターを用意するのは、テスラオーナーが、CHAdeMO規格の急速充電器でも充電ができるようになるという明確なメリットがあります。

 しかし、スーパーチャージャーをCHAdeMOなどの規格に変換するアダプターを、テスラが用意するメリットがほとんどありません。

 急速充電器を使用することのできるEVやプラグインハイブリッド車(PHEV)のラインナップは、徐々に増えつつあります。

 ガソリン車と比べるとまだまだ少ないとはいえ、テスラ以外のEVやPHEVがスーパーチャージャーを利用することになれば、これまで以上の混雑は避けられないでしょう。

 そのため、非テスラ車がスーパーチャージャーステーションを占領することによって、テスラ車が充電できないという本末転倒な事態も起こりかねません。

 つまり、テスラがCHAdeMO規格のアダプターを作ることは、テスラのオーナーに対してデメリットを生じさせることになり、テスラが重視してきた「ユーザー・エクスペリエンス(UX)」大きく損なうことになるのです。

 海外の一部の地域では、スーパーチャージャーステーションの整備が進んだことで、比較的混雑しない時間帯などが存在するといわれており、そうした地域では、スーパーチャージャーの開放はメリットもあるかもしれません。

 しかし、スーパーチャージャーステーションが少なく、一方で非テスラ製EV・PHEVの多い日本では、スーパーチャージャーステーションの開放は慎重にならざるを得ないと考えられます。

※ ※ ※

 ただ、マスク氏は、テスラの目的は持続可能な社会の実現であるということを繰り返し述べています。

 その考えによれば、スーパーチャージャーをテスラオーナー以外にも開放するということは、理に適っているといえます。

 一見、テスラにとってメリットがなさそうな今回の取り組みですが、もしかしたら、マスク氏のアイデアによって鮮やかに解決されるのかもしれません。

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1件のコメント

  1. テスラ規格のガラパゴス化(井の中の蛙化)を感じているからだろう。

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