フェラーリのルーツはアルファ ロメオ!? 黄金時代を作った「8C2300」とは

ミッレ・ミリアやル・マンで勝利し続けたアルファ ロメオの黄金期

 レーシングカーと市販スポーツカーの間に垣根のなかったこの時代だからこそ可能だった話ではあるが、アルファ ロメオ8C2300コルトはその多くにザガート製のスパイダーボディが架装され、当時のイタリアにおける最重要イベントであった都市間公道スピードレース「ミッレ・ミリア」でデビューを果たした。

●世界のビッグレースで圧倒的戦果を収めた名作

「6C1750GS」と「8C2300コルト」
「6C1750GS」と「8C2300コルト」

 初年度こそルドルフ・カラッチオラの駆るメルセデス・ベンツ「SSKL」に勝利を阻まれたものの、翌1932年および1933年は第二次世界大戦前の世界最高レーシングドライバー、タツィオ・ヌヴォラーリとともに8C2300ザガート製スパイダーが総合優勝を勝ち取っている。

 また、4シーターを求めるこの時代のル・マン24時間レースのレギュレーションに応じて、「ルンゴ」シャシを使用した「8C2300ル・マン」もごく少数が製作された。

 8C2300ル・マンのボディは、大方の「コルト」と同じくザガートが担当したが、1933年以降は後にフランスでカロジエ「フィゴーニ・エ・ファラッシ(Figoni et Falaschi)」を成功させるジュゼッペ・フィゴーニが手掛けた。そして最大の目的たるル・マンでは、デビューイヤーの1931年から1934年まで破竹の4連勝を遂げることになるのだ。

 さらにヤーノ率いる設計陣は、レースカー直系の8C2300を擁する極めて自然なアイデアとして、8C2300とコンポーネンツの一部を共有する純グランプリマシン「ティーポB(P3)」がデビューするまでの「中継ぎ」となるモデルを生み出すことになる。

 2650mmという8C2300シリーズでは最短のホイールベースを持つシャシを特製し、コンパクトで軽いポインテッドテールの2座ボティを組み合わせる。そしてレースの規約に応じたフェンダーや灯火器の脱着だけで、スポーツカーレースからGPレースまで参加することができた。このモデルはデビュー戦の1931年モンツァGPを1−2フィニッシュで飾り、以後「モンツァ」のニックネームで呼ばれるようになる。

 急ごしらえの8C2300モンツァは、1931年とその翌年に合計10台ほどが製作されたのち、ティーポBにあとを譲るが、そののち2シーター仕様に改装して市販された。1934年には前年までの8C2300コルトに代わってミッレ・ミリアに参戦し、事実上のセミワークスである有力プライベートチームに販売された車両が、みごと1位から4位までを独占してみせた。

 また経営難にあったアルファ ロメオ社が、1933年に一時グランプリを撤退した際には、エンツォ・フェラーリ率いるサテライトチーム「スクーデリア・フェラーリ」が、数台の8C2300モンツァをティーポBと同じ2.6リッターに排気量アップ。同チームの「カヴァッリーノ・ランパンテ(跳ね馬)」のエンブレムを掲げて、一時的にグランプリ復帰を果たしたことでも知られている。

 つまりアルファ ロメオ8C2300は、前史時代のスーパーカーであるとともに、これからル・マン24時間レースをはじめとするFIA世界耐久選手権に投入されることになるであろう「ハイパーカー」の概念を、90年も先取りしたモデルといえなくもないのだ。

 フォードの開祖、ヘンリー・フォードはかつて「街でアルファ ロメオを見かけたら、帽子を取って挨拶せずにはいられない」という名言を残したとされている。

 自動車が、神々のごとき叡智の集合体だった第二次世界大戦前のベル・エポック時代、アルファ ロメオはスピードと強さ、そして美のシンボルというべき存在として世界の頂点に君臨し、自動車を愛好するすべての人にとって畏敬と憧憬の念を与えずにいられない存在であったのだろう。

 そして、現在のフェラーリに継承されたこの系譜を築き上げた立役者として、名匠ヴィットリオ・ヤーノ技師の名を挙げないわけにはゆくまい。

 自動車界でいう「ヴィンテージ」期と「ポスト・ヴィンテージ」期にまたがったこの時期に、アルファ ロメオのテクノロジーと同社にとっては存在証明ともいえるレース活動のすべてを支え、世界の頂点へと押し上げたのが、ヴィットリオ・ヤーノ技師と彼の作品たちだったのである。

【画像】現在のアルファ ロメオのイメージを作った「8C2300」とは(15枚)

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