超絶技巧! ベントレーがスーパーリッチに愛される理由【大人の工場見学】
「大人の工場見学」第1回は、英国クルーにあるベントレーのファクトリーを紹介しよう。世界中のスーパーリッチに愛されるベントレーは、どのようにして生み出されているのだろうか。
数より質! ベントレーの工場はいうなれば工房だった
ベントレーが1946年以来、すべてのモデルをカスタマーのもとへと送り出してきた、イングランドのクルーにある本社工場を訪ねた。
赤茶けた煉瓦作りの壁は、もちろん1946年から変わることはないが、一日の間に四季があるとも例えられるのがイングランドの天気。訪ねるたびに、表情を変えるように思えるのがこの工場だ。
現在このクルー工場には、5500人ほどの従業員が働いている。2019年の年間生産台数は1万1006台で、これは7年連続で1万台を超える数字だ。2020年は新型の4ドアサルーン、「フライングスパー」の新車効果もあるため、この数字はさらに大きなものになるだろう。
このようにシンプルに考えられるのは、普通の自動車メーカーの話であって、ベントレーの場合にはその事情は若干異なっている。それは最初に案内された、「コンチネンタルGT」とフライングスパーのアッセンブリーラインの動きからも想像することができた。
親会社であるフォルクスワーゲン(VW)のファクトリーがロボットを多用して、もっとも効率的な生産のプロセスを実現しているのとは対照的に、メカニックが与えられた仕事を確実に、カスタマーのために心をこめて組み立てているようにも見えるのが、クルーのファクトリーなのだ。
些細なことでも、何かの問題があればラインは頻繁に止まるが、時間より品質が大切であることをベントレーは誇りとする。
1日にこのクルー工場からデリバリーされるベントレーは約60台。ラインは1日8時間のワンシフトだが、ベントレーが世界中のカスタマーを魅了してやまないインテリアを作り上げるレザーやウッドのワークショップは、3シフトの24時間で動いている。
なぜなら、そうしないとラインにはシートやトリム、あるいはインパネなどの取り付けを待つクルマが長蛇の列をなしてしまうことになるからだ。
ちなみにこのクルー工場のラインは、コンチネンタルGTとフライングスパー用、ベンテイガ用、そしてミュルザンヌ用の3本がある。このうちのミュルザンヌが生産を終了するため、今後そこはベントレーのビスポーク部門、マリナーが使用することになる。
先日そのマリナーに、次の3部門を設立した。
・コレクション:ベントレーの特別仕様車の製作を担当。
・クラッシック:その名のとおり、クラッシックモデルのレストアなどを担当。
・コーチビルド:先日発表されたバカラルのような限定生産車を生み出す、ベントレーとしては最も革新的な部門としての活動をおこなう。
アッセンブリーラインを見学しながら、次に案内されたのはウッドのワークショップだ。最近ではカーボンパネルを選択するカスタマーも多くなってきたが、高級でさまざまな種類、そしてカラーを選択できるウッドパネルは、やはりベントレーには必要不可欠なものである。
素材となるウッドは、北米や中南米を始め、ヨーロッパ、東南アジア、日本、ハワイなど、まさに世界各国から集められたもので、それを薄くスライスした後に3週間ほど倉庫でじっくりと乾燥する。
そのカラーや模様はまさにさまざまで、必要とされたウッド=ベニヤは2週間をかけて5層にラッカー塗装され、そのたびにサンドペーパーなどで磨き上げられ、独特の色合いの艶を出していく。
レザーのワークショップにも、驚きの光景が広がる。一台のモデルに必要な牛革=ハイドの数は、コンチネンタルGTあたりなら1~2頭程度だろうと考えるのは大きな間違い。1台を仕上げるのに必要な頭数は実に10~12頭分で、4ドアのフライングスパーでは13~14頭分、ベンテイガでもほぼ同数のハイドが必要になる。
聞けばベントレーは、世界各国にスペシャリストを派遣し、品質の良いハイドを常時探しているということである。ただし、現在はほぼヨーロッパ産のものが使用されている。これは牧場に有刺鉄線がないこと。そして蚊が少ないことが理由だという。これらによる傷の部分はレザーのパーツとして使用することができないからだ。
インテリアのワークショップは、そのほとんどがハンドメイドによる工程だが、ハイドから傷をチェックし、その情報をもとに廃棄する量を最小限に抑えるようカットしていくのは、コンピューターによって制御されるレーザー・カッターの仕事だ。
シートやステアリング、あるいはダッシュボードなどに、丁寧にレザーやウッドが縫い付けられていくプロセスは、まさにベントレーに命が吹き込まれていくかのような感覚だ。
なぜベントレーは、1台について約5週間もの時間をかけ、1日に最大で60台ほどしかラインオフすることしかできないのか。そしてなぜベントレーは世界のスーパーリッチに、ここまで愛されるブランドであるのか。その理由の一端をファクトリーで見た思いがした。
親会社であるVWにとっても、ベントレーにこれ以上の生産を望む意思はないだろう。これこそがプレミアム・ブランドが生み出される世界。そう自分自身が納得させられた、ベントレーのクルー工場見学だった。
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