東京モーターショーと何が違う? 世界中の自動車メーカーが注目する中国ショーの実態とは
実は「新車即売会」? 上海モーターショーのもう一つの目的とは
セキュリティ体制にも大きな違いがあります。上海モーターショーでは、東京モーターショーにはない荷物検査や金属探知機が2年前から用意されていましたが、2019年はそれに顔認証システムが加わっていました。入国審査並みの厳しさです。
そして中国のモーターショーにはやたらと警察官や保安スタッフがいます。2019年の上海モーターショーでは警察官は1000人、保安スタッフは2000人が投入されたとのことです。これに加えて、会場の運営会社に所属する警備員も大勢配置されていました。
あわせて、テロ対策の一環としてAIが会場内の人の動きを監視して異常を判断する「早期警戒システム」も導入されたそうです。
最後に、出展されたブースでの対応についても触れておきましょう。筆者(加藤久美子)は、最初に取材に訪れた2017年の上海モーターショーから、中国のモーターショーに何ともいえない「違和感」を覚えていたのですが、今回その理由がはっきりとわかりました。
中国のモーターショーは、日本のモーターショーには近年出展していない「フェラーリ」や「ロールスロイス」、「ランボルギーニ」、「アルファロメオ」といった海外ブランドもすべて出展していて、一見すると雰囲気は「国際的」といえるかもしれません。
しかし、中国のモーターショーにはまだまだ「国内向けイベント」というような意味合いが色濃く残っています。東京モーターショーのように世界に発信することが目的というよりも、中国国内のユーザーや企業に向けた「車やパーツを買ってもらうための」展示会という意味合いが強い印象です。
今回の上海モーターショーにおいても、プレスデーにもかかわらずディーラーから招待された見込み客と思われる来場者が大勢入場しており、「会場特別価格」と銘打って新車が販売されているブースもいくつかありました。商談をするための豪華な特別席も各ブースに用意されています。
プレスルームやプレスカンファレンスに集う報道関係者も、様子を見ているとほとんどが中国メディアのようで、「プレスカンファレンスは中国メディア限定」と指定しているメーカーもいくつかありました。少なくとも東京モーターショーには、日本メディアに限定されているプレスカンファレンスはないと思われます。
さらに、上海モーターショーや北京モーターショーではほとんどのブースで英語がまともに通じませんでした。中国系メーカーだけではなく、日系メーカーのブースや、欧米の「フォード」「ジープ」「ランドローバー」などのブースでも同様でした。
各種案内や資料も、英語での表記はほとんどありません。おそらく海外に発信する必要性を感じていないからでしょう。主催者および出展社側の英語コミュニケーション能力においても、東京モーターショーのほうがはるかに優れていると感じました。
世界有数の優れた自動車メーカーを多く擁する日本。世界に向けた発信力において、東京モーターショーが中国のモーターショーの追随を許すことはないでしょう。今年の東京モーターショーにおいても、世界を振り向かせる魅力的な日本車が登場することを期待したいところです。
【了】
Writer: 加藤久美子
山口県生まれ。学生時代は某トヨタディーラーで納車引取のバイトに明け暮れ運転技術と洗車技術を磨く。日刊自動車新聞社に入社後は自動車年鑑、輸入車ガイドブックなどの編集に携わる。その後フリーランスへ。公認チャイルドシート指導員として、車と子供の安全に関する啓発活動も行う。
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