クルマデザインなぜ似てきたのか? 昔は個性豊かもいまは画一化で見分けつかず
近年のカーデザインには甚大な欠点が!?
そして近年のカーデザインには、甚大な欠点があります。側方や後方の視界が大幅に悪化したことです。
まずはドライバーの囲まれ感を強めるデザインが流行して、サイドウインドウの下端が持ち上がり、側方視界が悪くなりました。昔のクルマはサイドウインドウを開き、ドアパネルに肘を乗せて運転できましたが(もちろん運転方法としては大間違いです)、今のクルマはミニバンや一部のSUVを除くと肘を掛けられません。肘が大きく持ち上がってしまいます。
これに加えてサイドウインドウの下端を後ろへ向けて持ち上げる「ウェッジシェイプ」も流行しているため、斜め後方も見にくいです。リアウインドウもこれに合わせて高さを決めるから、真後ろの視界も悪くなりました。シートに座ると、クルマに潜り込んだ感覚になります。
ちなみにサイドウインドウの下端を持ち上げていない車種では、ドライバーが後ろを振り返った時に、ボディの側面に立つ事故率の高い小学校1年生の平均身長(116.5cm)が辛うじて見えます。
しかしサイドウインドーの下端を持ち上げた形状だと、この身長では後席側のドアパネルに隠れやすいです。サイドウインドウの下端を後ろに向けて持ち上げるのは「危険なボディ形状」でもあるのです。
この悪しき傾向が前述したデザインの画一化に組み込まれ、今では日本車、輸入車を問わず、後方の見にくい危険なボディ形状が増えてしまいました。
この欠点を補う装備として、後方の様子を映すバックモニターがあります。モニター画面はインパネやルームミラーに組み込まれるため、後方を見ている時はチェックができません。
そこでドライバーがモニター画面を見ながら前を向いて後退すると、これも危険です。後方の左右から急速に接近する自転車などは、モニターが映す範囲に入らず、見落としてしまいます。後退は後ろを向いて行うのが基本なので、モニター画面もリアウインドウの手前あたりに装着して後ろを向いた状態でも見えるようにすべきですが、その配慮は一切ありません。
これでは工業デザインとして失格です。カッコ良さや美しさと、視界という安全にかかわる優れた機能を両立させねばならないからです。
最近のクルマは、コンセプトのひとつに「原点回帰」を挙げることが多いですが、もっとも原点に回帰すべきはカーデザインでしょう。前後左右が良く見える安全な視界と、個性の際立つ魅力的な外観デザインを取り戻して欲しいです。
【了】
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。