ライバル「プリウス」との真っ向勝負は辞めた!? ホンダ「インサイト」が復活する本当の理由

セダンボディで復活した新型「インサイト」は、もはや「プリウス」のライバルではない

 そんな惨敗の生産終了から4年。久しぶりの復活となったのが、今回の3代目となる新型「インサイト」です。ハイブリッドシステムは、2つのモーターを持つ「スポーツハイブリッドi-MMD」を採用しました。2代目モデルとは逆にEV走行が基本で、ガソリン・エンジンは発電を主に担当します。先進性は抜群です。

ホンダ 新型「インサイト」のエンジンルーム

 ただし、新型「インサイト」は、「プリウス」のライバルからは降りたと言っていいでしょう。なぜならば新型「インサイト」は5ドアハッチバックをやめて、普通のセダンになってしまったのです。価格も326万円程度からで、「プリウス」よりも50万円以上も高い設定です。

 それでいて燃費性能34.2km/L(JC08モード)は、ほとんど「プリウス」と同じ。クルマの形も値段も違ってしまえば、購買層も別。ライバルということはできません。互いに販売に対する影響は少ないのではないでしょうか。

アメリカを見据えた新型「インサイト」の販売戦略

 では、なぜ、新型「インサイト」は、セダンとなり、価格を高めて登場したのでしょうか。ホンダには、新型「インサイト」とほとんど同じサイズ感の「シビック」が存在します。わざわざ別モデルにせず、「シビックハイブリッド」として販売するという方法もあります。

 その答えはアメリカにあるのではないかと考えます。ホンダにとって自動車ビジネスの主戦場はアメリカです。日本もホンダにとっては大切な市場ですが、こちらは軽自動車とコンパクトカー、ミニバンが主要な商品となります。

 一方、日本よりはるかに規模の大きいアメリカ市場におけるホンダの主力商品はセダンとSUVです。そのアメリカのセダンに関してホンダは、今、電動化を熱心に進めている真っ最中。「アコード ハイブリッド」に「クラリティ」はPHV(プラグインハイブリッド)とEV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)の3兄弟を揃えており、そこに新たに「インサイト」が加わったという状況です。

 ちなみにアメリカにおける新型「インサイト」の立場は、「シビック」と「アコード」の間。“走る喜び”の「シビック」に対して、新型「インサイト」は“上質なミドルセダン”です。デザインも、若干、伸びやかでエレガントなものになっています。

 そして価格も「シビック」よりも上。広いターゲットに向けた「シビック」に対して、新型「インサイト」は、よりパーソナル色が強くなっています。

ホンダ 新型「インサイト」の運転席まわり

 つまり、アメリカにおけるセダンのラインナップ拡充というのが新型「インサイト」の役目です。この先に「シビック」にハイブリッドが追加されても新型「インサイト」には、独自の存在感が残されることでしょう。

 アメリカ市場を重視した結果が、新型「インサイト」の変化の理由と言えるのではないでしょうか。セダンになって値段が高くなったのは、アメリカ市場の都合と考えればつじつまがあいます。

 日本という小さな市場ではなく、広大なアメリカの市場で戦うための変化です。その結果が、日本での「プリウス」とのライバル関係終了だったと言えるのではないでしょうか。

【了】

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Writer: 鈴木ケンイチ

1966年生まれ。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。自動車専門誌を中心に一般誌やインターネット媒体などで執筆活動を行う。特にインタビューを得意とし、ユーザーやショップ・スタッフ、開発者などへの取材を数多く経験。モータースポーツは自身が楽しむ“遊び”として、ナンバー付きや耐久など草レースを中心に積極的に参加。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを、分かりやすく説明するように、日々努力している。最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。

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