「グッドイヤー」がWEC富士にタイヤ1368本供給も1タイプのみ!? 市販用にも活用されるレースタイヤの最新技術とは
富士スピードウェイにて、9月27日に「FIA 世界耐久選手権 第6戦 富士6時間耐久レース」が開催されました。アメリカの老舗タイヤメーカーである「グッドイヤー」は、LM GT3に参戦する全車にタイヤを供給しています。市販タイヤとの違いはどこにあるのでしょうか。
供給は合計1000本以上…なのに1タイプだけのナゾ
グッドイヤーがタイヤを供給する「LMGT3」カテゴリーのマシンは合計18台。それらのマシンに使うためにグッドイヤーが富士へ持ち込んだタイヤの数は合計で1368本にもなります。
それを18台で割ると1台あたり76本、4本を1セットと考えると1台当たり19セットのタイヤが割り当てられていることになります。
この19セットにはドライタイヤ(乾いた路面用)だけでなくウエットタイヤ(ぬれた路面用)や、6時間の決勝に加えてフリー走行や予選で使うタイヤも含まれます。

F1などでは、ドライタイヤといっても「ソフト」「ミディアム」「ハード」と数タイプあります。
これは、タイヤのコンパウンド(ゴムの質)が何種類かあり、最も高いパフォーマンスを発揮する温度域が異なるからです。状況に合わせて、複数ある選択肢から最適なコンパウンドのタイヤを使い分けるのです。
しかし、2026年シーズンのLMGT3クラスでグッドイヤーが用意するドライタイヤのスペックは年間を通じて1タイプだけです。
これは世界の頂点を競うレベルのレースで使うタイヤとしては極めて珍しいことです。たった1タイプのスペックですが、グッドイヤーの高い技術が、路面温度15度前後となることもある富士から、50度を超えることもある中東まで幅広い温度域に対応するレースタイヤを実現しているのです。
さらに注目すべきは、適応車種の幅広さです。LMGT3マシンはさまざまな車種があり、フロントエンジンもあればミッドシップ、またリアエンジンもあります。すなわち、前後重量配分は車種によってかなり差があります。
にもかかわらず、全車とも“ワンスペック”のタイヤで対応できており、タイヤサイズも全車フロント300/680/R18、リア310/710/R18で共通です。
ダン・ブラケット氏によれば、「どれに履いても、1つのスペックで高いパフォーマンスを発揮するようなタイヤ開発はとても大きなチャレンジだ」といいます。
なお、すべてのタイヤを1レースで使い切るとは限りません。環境保護の意味合いから、使い終わったタイヤはレース開催場所で処分するのではなく、グッドイヤーが持ち帰って責任をもって処理するそうです。
レース用から市販用に活用されている2つの技術
多くの人は、レースタイヤと持続可能性(サステナビリティ)は全く関係がないと考えていることでしょう。
しかしそうではありません。グッドイヤーのWEC用タイヤに使われる素材のうち、なんと33%はバイオベース素材やリサイクル素材などで作られています。
そして、来年(2027年シーズン)からは再生可能素材の比率が66%と、現状の2倍にまで引き上げられる予定です。

環境に配慮したレースタイヤは、昨今のレースタイヤの常識になりつつあり、グッドイヤーはその先頭を走っているブランドです。
レースタイヤの技術は、市販タイヤとは求められる性能が違うので関係ないと考えられているかもしれませんが、実際はレースタイヤで磨かれた技術が、市販タイヤにも活用されています。
その技術は主に2つあります。
1つが対応温度域の広さです。WEC用のドライタイヤは1スペックで幅広い温度に対応しますが、それと同じ考えなのが「ベクター4シーズンズ」などで知られているグッドイヤーのオールシーズンタイヤです。
一般的なサマータイヤは、温度が低くなるとゴムが硬くなり高いグリップを発揮しなくなることが起こり得ます。しかし、オールシーズンタイヤは対応温度域の広いコンパウンドを使うことで寒い日や雪の路面でも滑りにくいのが特徴です。
そこに、対応温度域が広いレーシングタイヤ開発で得た知見と技術が活用されているのです。
もう1つは環境性能です。サーキットでのレースは、タイヤに求められる性能要件がきわめて高いことはイメージがつきやすいかもしれません。
そんな最高の性能を発揮するために生まれたタイヤでも、グッドイヤーは再生可能素材を多く使ったサステナビリティあふれるものを実現。そこで培った環境対応技術が、市販タイヤにも注がれています。
あまり知ることのない世界最高峰のレースタイヤの世界ですが、実は市販タイヤとの共通点もあり、地球環境にも配慮しているのです。
ちなみにグッドイヤーは、LMGT3クラスの公式タイヤサプライヤーを2032年まで継続することが決まっています。
Writer: 工藤貴宏
1976年長野県生まれ。自動車雑誌編集部や編集プロダクションを経てフリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに寄稿している。執筆で心掛けているのは「そのクルマは誰を幸せにするのか?」だ。現在の愛車はマツダ CX-60/ホンダ S660。



























