福島第一原発“至近”を通る「路線バス」とは? 震災15年半で車窓から見えた「新しい街」と「帰還困難区域」のコントラスト 新常磐交通の「いわき〜浪江間」を乗り通す 〜果てなき路線バスの旅〜

知らない道路をひたすらたどり、ふだん行くことのない街の素性を知り、そして見たことのない景色に出会える。それが「路線バスの旅」の魅力です。今回は新常磐交通のうち、震災の影響が今も残る、いわき駅から浪江町にかけての2路線に乗ってきました。

いわき駅から福島原発近くまで あえて今“バス”で行く

 街で見かける路線バスの路線網は、毛細血管のように全国各地に張り巡らされ、都市間を結ぶだけではなく、大通りから1本入った生活道路や狭隘な路地、鉄道のない僻地、山奥の秘境を走る路線も数多くあります。
 
 そんな路線バスで停留所をひとつずつ辿りながら目的地を目指すバス旅は、“直行の旅”ではなく、クルマや鉄道旅行では一瞬で見逃してしまう「その土地の素顔」を知ることができます。
 
 地元の乗客に溶け込み、観光客としてではなく、「その町の日常」にそっとお邪魔しているような感覚は、他の移動手段ではなかなか味わえません。
 
 今回は、福島県で路線バスを運行する新常磐交通のうち、いまだ東日本大震災の影響が残る、JRいわき駅以北の2路線を乗ってきました。

 新常磐交通は福島県の太平洋側、いわゆる「浜通り」のエリアで路線バスや高速バスを運行しています。浜通りといっても福島県は縦に長いので、その範囲は茨城県との県境にあるいわき市勿来(なこそ)から宮城県にほど近い南相馬市までの100km以上をカバーしています。

 さて、今から遡ること15年半前の2011年3月11日、午後2時46分。三陸沖を震源とする、観測史上最大規模となるマグニチュード9.0の「東北地方太平洋沖地震」が発生。地震による被害のみならず、東日本の太平洋側の広い範囲で津波が発生し、甚大な被害をもたらしました。浜通りも壊滅的に被害を受けています。

 そして、福島県では地震と津波を起因とする深刻な原子力事故が発生したことは、誰しもの記憶に残っていることでしょう。

 浜通りの大熊町と双葉町に位置する東京電力 福島第一原子力発電所(以下、福島第一原発)で発生した事故により、高濃度の放射性物質が福島県の広い範囲に降り注ぎ、大規模な避難を余儀なくされました。

 新常磐交通の各路線も当時、地震や津波の影響だけでなく、原発事故によって路線の全面運休を余儀なくされました。さらには、風評被害によって貸切バスのキャンセルもあり、大きな打撃を受けることになりました。

 15年半の時が経過した現在、沿線のJR常磐線は完全に復旧済み。海に近い駅周辺の町も再興が進んだことで、発災時よりもかなり復興したように見えます。しかし、現在もなお、「帰還困難区域」として住民が帰れない地域があるのも事実です。

 そして新常磐交通でも、いまだ南相馬地区の路線は全路線で、川内・田村地区の路線は一部が運休となっています。

 現在、新常磐交通では、JRいわき駅からJR富岡駅までを結ぶ44系統「富岡線」、富岡駅から「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」までを結ぶ46系統「浪江線」が、太平洋と福島第一原発に近いルートを通る唯一の路線として、現在運行中です。

 果たして車窓からはどんな景色が見えるのでしょうか。秋の便りも聞こえてきた2026年9月17日、旅とバス好き(が高じて大型二種運転免許を先日取得)のくるまのニュース編集部員Nが乗り通してきました。

いわき駅に停車中の新常磐交通「いわき富岡線」[2026年9月17日/くるまのニュース編集部撮影]
いわき駅に停車中の新常磐交通「いわき富岡線」[2026年9月17日/くるまのニュース編集部撮影]

 いわき駅に到着したのは午前8時半ころ。朝ラッシュの時間は概ね過ぎていますが、それでも東北第3位の人口を誇るいわき市の中心部ということもあり、駅前はにぎやかです。常磐線の列車が来るたびに人が増え、バスを待つ人の姿もかなりあります。

 バス乗り場は南口ロータリーに集中しています。計10箇所の乗り場があり、福島県最大規模の港湾である「小名浜港」とその周辺の施設などの需要を支えるため、本数が集中するいっぽう、長距離を走る便の本数は少ないのが現状です。

 このうち、いわき駅から浜通りのほぼ真ん中、富岡町の富岡駅までを結ぶ44系統 いわき富岡線は、およそ42kmを走る路線です。

 新常磐交通においても内陸までをひた走る「上三坂線」と肩を並べる、ずば抜けて長い距離を走る路線のひとつとなります。平日は4往復、土曜日は3往復と本数もあまりありません。

 早速、8時45分発のバスで、終点の富岡駅まで乗ってみることにします。車両は比較的新しい中型のいすゞ「エルガミオ」でした。

いわき駅前ロータリーの様子[2026年9月17日/くるまのニュース編集部撮影]
しばらくはいわき市平(たいら)市街地を進む[2026年9月17日/くるまのニュース編集部撮影]

 いわき駅出発の時点で、乗客は複数乗っていました。バスは南口を出ると、いわき市平の中心部を走ります。近距離の需要もあるようで、通勤・通学需要を支える市内各線のような雰囲気です。途中のバス停からもちらほらと乗ってきます。

 バスはしばらく、いわき市の東西メインルートで常磐線と並行する国道399号を走っていきます。駅周辺は市街地で、399号も周囲は住宅や店舗があり、にぎわいがあります。

 途中「塩」という珍しいバス停もありました。このバス停の周囲には「塩向」「平塩」という地名があり、なにか製塩とも関係がありそうですが、それっぽい施設は見当たりません。こういった珍しい地名と出会うことができ、その出自に思いを馳せるのもバス旅の魅力です。

 草野駅の手前で浜通りの大動脈となる国道6号と合流し、さらに北東に進んでいきます。いわき駅から常磐線で2駅目となる四ツ倉駅の近くまで来ると、いよいよ海が近くなってきました。乗客はすでに3人まで減っています。

 すると、道の駅「よつくら港」への看板が見えたところで、前方に「東日本大震災 津波浸水区間」の標識が現れました。東日本大震災の当時、この6号よりも海側は壊滅。四倉漁港の船が6号に打ち上げられるほどの被害だったようで、津波の威力の凄まじさを感じます。周囲の町並みは現在、おおよそ取り戻しており、四ツ倉の市街が広がっています。

道の駅「よつくら港」付近を通過する新常磐交通の路線バス[2026年9月17日/くるまのニュース編集部撮影]
道の駅「よつくら港」付近を通過する新常磐交通の路線バス[2026年9月17日/くるまのニュース編集部撮影]

 ちなみに、この道の駅よつくら港では、水産品や地元の農産物のほか、名物のホッキ飯やウニ飯弁当などのグルメも豊富です。最寄りの「東四丁目」バス停から徒歩2分程度となり、バスでもアクセスは良好です。

 バスに乗りながら名物を見ていると、もうお腹が空いてきました。残念ながらここで降りてしまうと、次のバスまでは3時間も待たないといけないので、後ろ髪を引かれる思いでスルーします。特にこの浜通りのエリアはやはり海鮮が魅力で、バスに乗って食べに行くのも一興です。

 その後、しばらく6号を進むと、バスは「波立(はったち)海岸入口」交差点で海側の県道395号線に右折していきます。ここまで来ると海は右の車窓に目一杯広がり、いよいよ本格的な旅をしている気分になってきました。

名勝「江之網の磯」[2026年9月17日/くるまのニュース編集部撮影]
名勝「江之網の磯」[2026年9月17日/くるまのニュース編集部撮影]

 ここは名勝「江之網の磯」。荒々しい崖と打ち寄せる波が美しいです。静かな磯場ではあるものの、付近では震災当時、7mにも及ぶ津波が押し寄せたといいます。

 トンネルを2つ通り過ぎたところで、右手に岩肌に立つ小さな鳥居が見えました。弁天島にある「波立弁財天」です。周囲の岩礁にポツリと存在する弁財天は、手前の朱い弁天橋と合わせ、ここだけ神秘的な光景が広がっています。

 その後久ノ浜駅をすぎると、395号線を終点まで向かい、再び6号へと合流します。バス停の間隔が非常に長くなり、久ノ浜駅近くの「久之浜駐在所」バス停をすぎると終点までは7駅となりました。

 6号は陸側を進むため、徐々にアップダウンが増えています。上り坂では登坂車線も敷設され、徐々に走りにくい区間になってきました。すでに周囲は店舗などはほとんどなくなり、淡々とルートを辿っていきます。

波立海岸から久ノ浜駅までは海岸沿いを進む[2026年9月17日/くるまのニュース編集部撮影]
眼下には雄大な太平洋だが…この海が浜通りの街を襲った[2026年9月17日/くるまのニュース編集部撮影]
道の駅「ならは」は温泉もある[2026年9月17日/くるまのニュース編集部撮影]
道の駅「ならは」は温泉もある[2026年9月17日/くるまのニュース編集部撮影]

 広野町を通り抜け、順調に走行を続けると、次は楢葉町の道の駅「ならは」に到着。敷地内に入っていきます。

 この路線2つ目の道の駅で、ここではエビやホタテ、いかなどの海の幸たっぷりの「ならは海鮮タンメン」、サッカー日本代表も務めたトルシエ監督も絶賛した郷土料理「マミーすいとん」が味わえます。

 しかも6号沿いの道の駅では唯一の日帰り温泉まであるので、ご飯を食べてひとっ風呂浴びられる体験が可能という、旅好きにはたまらないスペシャルな施設です。取材当日は朝が少々寒かったので、温泉にドボンしたい気持ちを抑えつつ、引き続き富岡駅を目指します。

富岡駅に到着した新常磐交通「いわき富岡線」[2026年9月17日/くるまのニュース編集部撮影]
富岡駅に到着した新常磐交通「いわき富岡線」[2026年9月17日/くるまのニュース編集部撮影]

 終点の町である富岡町に入ると、沿線には特定廃棄物埋立情報館「リプルンふくしま」がありました。終点富岡駅近くにも、「東京電力廃炉資料館」があり、原発事故から未来に向けての情報を発信しています。このエリアでは福島第一原発までの距離が10km少々となり、不思議と緊張感が高まってきます。

 いわき駅出発から1時間15分。「次は終点、富岡駅前」のアナウンスが聞こえてきました。富岡駅で降りた乗客は、編集部員と同様に、いわき駅から乗り通りしてきた旅行者2名でした。

 乗ってきたバスの次の運用まで少々時間があったため、運転士さんに利用状況などの話を伺いました。

「この路線(の四ツ倉より先の乗客)は残念ながら少ないですね。『いわき四倉線』(いわき駅から途中の四ツ倉駅までの路線)というのがあるんですが、それの代わりに乗る方がほとんどで、あまりこちら(富岡駅方面)まで来る人はいないですね。住んでいる人もまだいないですし、土曜日も数人といった感じです」

 この富岡駅は、東日本大震災で甚大な被害が出た駅のひとつです。津波で駅舎は流出し、直後に原発事故があったために再建ができず、長らく放置されたホームの残骸が残ったままになっていました。

 現在は警戒区域の解除とともにようやく2015年ころから復旧工事が実施され、北側に移設。きれいなロータリーと駅舎が立ち、常磐線の運転再開とともに、再建したように見えます。

 しかし、街の様子は一変。かつてあった駅前商店街の面影はなく、15年半が経過した現在も、人影はまばらといった状況です。

 震災前は町にも活気があったらしいですが、やはり震災と原発事故の避難の影響で、多くの住民が移住することとなり、バスの利用者も大幅に落ち込んだようです。新たな町の再建はできても、完全な「復興」とは一体何なのか、改めて考えさせられます。

 こうして訪れてみると、まだ震災の影響が色濃く残っていることがよくわかります。時間はかかるかもしれませんが、人の姿が戻ってきて欲しいところです。

 さて、このあとは富岡駅から原発の付近を通り、浪江町の「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」までを結ぶ46系統「富岡浪江線」の路線バスがあり、浪江町まで行くことが可能です。残念ながら本数の関係から接続はあまり良くないため、ひとまず常磐線で浪江駅まで行き、そこから富岡駅に戻ってくるルートを取ることにします。

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