古いクルマに乗ることは「罪」なのか? 「自動車税のグリーン化」をもう一度考える
そのクルマの環境負荷に応じて自動車税の税率を設定する「自動車税のグリーン化」。2015年度から、古いクルマに対する税率がさらにアップしました。この制度についていま、様々な意見が上がっています。そこにはどんな背景があるのでしょうか。また、何が問題なのでしょうか。
長く大事に使うほど税金が高額に
新車登録から13年を超えたクルマの自動車税が割り増しになる、いわゆる「自動車税のグリーン化」。昨年度までは10%だったその割り増し率が、本年度2015年度分から15%に増税されました。
これに関し、「実態を無視している」などとネットで話題になりましたが、本当にそうなのか、どういう背景があるのか、今回、立場が異なる複数の人に話を聞くことができましたので、改めてこの「自動車税のグリーン化」について、考える材料にしていただければと思います。
●そもそも「自動車税のグリーン化」とは?
そのクルマの環境負荷に応じて自動車税の税率を軽くする、もしくは重くするのが「自動車税のグリーン化」です。ガソリン車(ハイブリッド車を除く)とLPG車は新車新規登録から13年を経過したもの、ディーゼル車は11年を経過したものについて、税率が上がります(乗用車などの場合)。
これについて、ネットでの反響を見ていると「普通は古くなったら負担は軽くなるはず」「大事に使っているのにどうして税負担が重くなるの?」など、様々な意見が交わされていました。そこでまず、なぜそもそもこういう制度に至ったのか、国のスタンス、見解を聞くことにしました。
●自動車法制を多く管轄している国土交通省の話
今回の増税について、交通関係を管轄する国土交通省への非難コメントが散見されたことから、同省の自動車局総務課に話を聞きました。
それによると、結論としては「お答えする立場にはない」。法整備は確かに管轄されている国土交通省ですが、今回は「自動車税」という地方税の問題であって、管轄は総務省とのこと。「自動車の税金」=「自動車を広く管轄している国土交通省」という感覚は間違いだったようです。猛省。
また、税金が何に使われるのかという説明と、「こんなことができるようになる」といった「希望」を感じさせる説得力があれば、それはそれで価値があるだろうと竹門さんは語りますが、「日本人にあった法整備が主体的に整備されているのだろうか」という点には疑問を感じるといいます。
日本人には「勿体無い精神」が元々備わっているなか、いまの税制はその「勿体無い精神」と「新品の購入の促進」がバーターで、お金で釣られるような形になっている点に強い違和感を覚えると竹門さんは言うのです。
古いクルマの環境負荷に重課するのは良しとして、古い物を大事にする価値観を尊重するルールがあっても良いのでは、さもないと、そもそもクルマの購入自体を放棄する人が増えてしまわないか――。そのほうが心配なのだそうです。
●「ヒストリックカー」として
「クルマは贅沢品、高額商品」という考え方で課税している国はあるようですが、「ヒストリックカー」という点で重課自動車税をかける国はあまりないようです。
スイスではコンディションの良い30年以上前のクルマを「ヒストリックカー」として定義付け、3台以上クルマを所有している場合には優遇が受けられるそうです。またフランスでは、新車より古いクルマのほうが登録費用が安価ですみます。
環境負荷が低いクルマへの代替え、進んでいるのか?
●ということで総務省に
総務省の都道府県税課で自動車税の話を聞くことができました。
それによると「自動車税のグリーン化」、議論の出発点は「地球環境に優しいクルマを増やしたい」ということ。新たな税をスタートさせる場合、「客観的で明確な根拠に基づいたもの」という前提があり、今回は「新車で購入できるクルマより古い基準の排ガスレベルで販売されたクルマに負担してもらおう」ということのようです。
ただ、闇雲に徴収すると乱用になりかねないので、一定の基準を設けるという意味でその影響や税収の効果など広く検討した結果、「新車登録から11年を超えるクルマ」を基準とし、なかでもガソリン車は所有者が多く影響が大きいことから、営業車利用が多いLPG車と共にプラス2年、すなわち車検1回分の猶予を持たせて13年にした、ということだそうです。
また、その根拠は「排出ガスの優劣」のみに置かれ、例えば「古いものを大切に使う」といった用件に対する考慮を含んだものではない、といいます。今後、そうしたことを考慮に入れるのかどうかについてはまだ未知数、とのことでした。
●実際、排ガスがクリーンなクルマへの代替えは進んでいるのか?
古いクルマの税負担が増える一方で、排出ガスのクリーンな新しいクルマ(新車・高年式の中古車)への代替えは増えているのでしょうか?
「確かに商談トークでは使われたかもしれませんが、この3月末、それが理由で販売台数が増えた、乗り換えのきっかけになったという反響は、自動車業界からはほとんど聞かれませんでした」(自動車新聞社、井上さん)
基本的には、昔よりクルマを持つ人が少なくなっている現在。そのなかで、いわゆる「アベノミクス」効果で代替えする人はいたとしても、増税を回避するための買い替えは限定的なのではないか、といいます。
また自動車新聞社の井上さんは、古いクルマに乗っている人は増税になったからといって乗り換えない、逆にその程度なら負担増でも乗り続ける人が多い、今回の制度は「取れるところから取る」印象、というのが、自動車業界の動向から受ける肌感覚だといいます。
逆に新しい車が売れなくなる?
●ユーザー代表の意見
「ある程度はやむを得ないが、もっと深い議論を!」
クルマ好きコミュニティ「我夢車等(がむしゃら)中年団」を主宰する竹門 聡さんはそう話します。
竹門さんは、古いクルマに好きで乗っている人がある程度負担すること自体はやむを得ないといいます。そしてクルマの代替えに繋がり、セールスが安定的に持続することで自動車業界が発展することも大事で、そこに次のクルマ好きを取り込む可能性も感じるとのこと。
しかし「ガソリン車で13年を超えるクルマ」という重課対象の区切り自体は、議論の余地があるのではないかといいます。
「車齢は7年から10年が一般的な現在、13年という年数はやや根拠が分かりづらいのではないでしょうか」(竹門さん)
先進国は古いクルマに優しい?
イギリスの場合、1973(昭和48)年以前のクルマは税金免除です。ただし毎年車検が必要で、フロントグラスに「Historic Vehicle」というステッカーを貼ることになっています。乗らない時期は中断も可能です。
ドイツでは、30年以上前のオリジナルコンディションのクルマは「Hナンバー」(ヒストリックナンバー)の交付が受けられ、税金が優遇されます。1年のうち希望の6ヶ月間だけ乗ることができる「季節ナンバー」もあるそうです。
さあ、皆さんはこの「自動車税のグリーン化」、どう思われたでしょうか。
【了】
提供:乗りものニュース
Writer: 中込健太郎(自動車ライター)
大手自動車買取販売会社で中古車流通の実務、集客、ウェブコンテンツ制作など歴任。クルマそのものについての紹介、執筆に加え、「クルマでどこへ行くか、クルマで何をするか」という、人との関わりについての考察も多数。温泉ソムリエとして、クルマだからこそ気軽に行ける温泉探しにも余念がない。モットーは「クルマはそれ自体が人と人をつなぐメディア」。