最新メルセデス「Sクラス」を旧型と乗り比べ 自宅リビングより快適なリアシートとは?
プロレーサー、テストライダー・ドライバーの丸山浩氏によるオーナー目線のインプレッション。今回のテストカーは、メルセデス・ベンツ「S500 4MATIC LONG」だ。2世代前の5代目「S500」と乗り比べてみた。
ダウンサイジングエンジンでも充分にパワフルだ!
7代目となるメルセデス・ベンツ「S500」は、ダウンサウジングの3リッター直列6気筒ターボエンジンを搭載している。今回は比較として2005年登場の5代目のS500を持ち込んだが、こちらは5.5リッターの自然吸気V型8気筒エンジンだ。
大排気量V8エンジンを搭載したクルマなど、この先もう登場しないのではないかと思うが、やはりよき時代の重厚さがある。トルクに厚みがあって、余裕と静けさを感じさせる仕上がりは、さすがだと唸らされる。
しかし、最新の3リッター直6ターボも負けていない。ダウンサイジングエンジン+インテグレーテッド・スターター・ジェネレーターというパッケージでも十分にV8エンジン同等の重厚さやゆとりを表現できている。この点に、時代が移り変わってもS500らしい走りを貫こうというメルセデスの意地が感じられる。
最新の7代目S500の最高出力は433ps、5代目S500は380psということで、数値を見ても7代目はパワフルだ。しかし、エンジンを回した時のフィーリングにはやや軽さがあり、深みのある加速を見せる5代目とはやはりひと味違う。これは良し悪しの問題ではなく、好みの問題。5代目はすでに15年以上を経たモデルだが、今も十分に価値を感じさせてくれるし、7代目は最新の内燃機関としてあるべき姿を見せてくれている。
大きな差を感じたのは乗り心地だ。これは文句なく7代目の出来栄えが素晴らしい。徹底的に作り込まれたサスペンションにより、ギャップを越える際の姿勢変化がほとんどない。ショックの吸収性が高く、乗り心地は快適そのもの。道路の継ぎ目を通過しても衝撃はほとんど感じられず、滑るような走りだ。ぬめっとした感覚は、電子制御が大幅に進化しているからだろう。後部座席でも段差をほとんど感じさせないあたりは、サスペンションはもちろん、シャシ全体を相当に作り込んだ成果だ。
エクステリアは、カメラとレーダーで覆われているといっていい。最新の安全運転支援システムがほぼすべて搭載されている。ただし、テスラやBMWのように、どんどん自動化を推進しようという姿勢は感じられない。クルマがいち早く状況を検知しているのは確かだし、この技術レベルなら他メーカーに劣らない自動化が可能だろう。だかメルセデス・ベンツはあえてそうしない。「ここから先はドライバーのあなたが意識して操作してください」と気付かせてくれるのだ。メルセデス・ベンツらしい手堅いコンセプトは、運転好きとしては納得できるものだった。
運転席からの眺めはずいぶんとモダンで先進的になった。ウッドの雰囲気を残している5代目に比べると、大幅な変化といっていい。3Dコクピットディスプレイなど、メルセデス・ベンツとしてはなかなかチャレンジングなシステムを搭載しているが、正直、少し慣れが必要だ。ヘッドアップディスプレイの情報量も非常に多いので、何をどう読み取ればいいのか判断に悩んでしまう場面がある。ただし、この手のギミックはいったん慣れてしまうと手放せなくなるものが多い。技術に合わせて人も進化していく必要がある、ということだ。
後部座席にも身を埋めてみた。これがもう、本当に素晴らしい。ふかふかのシート、ふかふかのヘッドレストに包まれていると、それだけでリラックスできる。さらに今回の試乗車の助手席側後席には、フットレスト付きエグゼクティブリアシートが搭載されていた(LONGにパッケージオプション設定)。助手席のヘッドレストが自動で畳まれながら最大限前方にスライドし、それだけでも広々したところにきて、バックレストが43.5度リクライニングし、さらにフットレストがせり上がってくるのだ。
ここまで来たら、もう寝るしかない(笑)。はっきりいって、自分の家ならS500の車内で過ごしていた方が居心地がいいぐらいだ。あまりに快適なので、いったん乗ったらもう下りられないという魔力のようなものを感じる始末だった。それほど車内空間の出来栄えは素晴らしい。乗り心地のよさと合わせて、まさに快適な家がそのまま移動しているような、クルマとは思えないリラックスした空間だった。
パワーを誇示することなく、ダウンサイジングながら重厚さを見せてくれる3リッター直6ターボ+インテグレーテッド・スターター・ジェネレーターや、極上の乗り心地を実現している最高峰の電子制御AIRマティックサスペンション、そしてリビングルームをも超えるほど快適なインテリア。いつの時代も、S500を名乗るクルマはメルセデスの最上級セダンなのだということを改めて教えてくれた。
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