古くて新しい「F40」は、エンツォが遺した最後のフェラーリ【THE CAR】
エンツォによってフェラーリ創立40周年を記念して制作された「288GTO」をベースにしたロードゴーイングモデルカー「F40」。登場から30年以上経過したいまなお、色褪せないF40の魅力とは、一体何なのだろうか。
創業者エンツォが開発を指示した最期のフェラーリ
たとえば、1960年代半ばに生まれたランボルギーニ「ミウラ」は、1950−1960年代の美しきイタリアーナ・ベルリネッタ・スポルト時代に別れを告げるモデルであった。と同時に、華のスーパーカー時代の始まりを告げる節目のクルマでもあったのだ。
それからおよそ20年後の1980年代半ば。フェラーリはグループBカテゴリーのレース&ラリー参戦を目標において、「GTO(288)」を限定生産する。これをベースに、フェラーリ社創立40周年を記念して発売されたのがフェラーリ「F40」であった。
「288GTO」が、スーパーカー時代の跳ね馬のエピローグであったとすれば、F40こそは、1970−1980年代の華麗なる、けれどもビジネス的には低迷したスーパーカー時代に別れを告げた、21世紀の現代に繋がる、スーパースポーツカー時代のプロローグだったと思う。
「308GTB&S」シリーズの骨格をベースに特別仕立てされた288GTOは、結局、モータースポーツシーンに登場することはなく、わずかに272台を生産するに留まった“悲劇のコレクターズアイテム”であった。それでもフェラーリ社は、その黎明期によくあったように、否むしろ、その頃を懐かしむように、レース×公道のミクスチュアを諦めることはなかった。
エンツォ・フェラーリが最後にゴーサインを出した市販車という事実にも、F40誕生に向けた原動力の在処がうかがえるだろう。
そして、そのこと自体が、F40をフェラーリのなかの、さらなる特別な存在へと昇華せしめた。F40を語るとき、もはやフェラーリと断らずともいい。
F40には、もちろん、スーパーカー時代の名残もしっかりと残っている。
モノコック+サブフレームのミドシップレイアウトそのものは、1970年代スーパーカーの常套句であるし、真横から見たスタイリングは、スーパーカー時代のフェラーリそのものだ。
サイドインテークの造形などに、ディーノに始まったレオナルド・フィオラバンティ(ピニンファリーナ)の香りが残っている。ロングノーズ/スモールキャビン/ハイデッキのスタイリングは、それまでのイタリアーナ・ベルリネッタの真骨頂でもあったのだ。
加えて、そんなフィオラバンティ・シルエットに、決して新しくない手法でエアロデバイスが追加されたあたりが、F40の魅力かも知れない。それはあたかもスーパーカー世代に並行して興隆したシルエットフォーミュラ(グループ5)のようであり、それゆえところどころにアンバランスなライン構成があって、逆につかみどころのない機能美をこのクルマに与えるに至った。
そんな、いってみれば、古いスタイリング&パッケージングであったにも関わらず、F40から、後々のスーパースポーツカー時代へと連なる未来をそこはかとなく感じることができるのは、このクルマにカーボンファイバーやケブラー、アルミニウムといった、“当世流行り”の軽量素材がふんだんに使用されているからだといっていい。
外身は古くて中身は新しい。性能はエキセントリックながらターボ全盛時代のレーシングカーそのもので超一級。そんなアンバランスさこそが時代の節目に生まれた証であり、今なお多くのファンを魅了してやまない理由だろう。
F40の登場を境にして、古式ゆかしきスーパーカーは、徐々にその姿を消していく……。
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