「下町ロケット」よりもすごい!? 無人トラクターのリアルは想像以上だった
世界トップの農業用ロボット生産国になれる可能性の日本
SL60Aの機能は驚きですが、いくつかの疑問も。ドラマでは日本の測位衛星「みちびき」を思わせる衛星ヤタガラスの打ち上げによって、無人農業トラクターの実用化が可能になるという設定でした。ところが、SL60Aが発売されたのは2017年であり、みちびきの運用が始まった昨年秋よりも前のこと。「SL60Aは、みちびきからの測位情報は使っておらず、アメリカのGPSとロシアのGLONASSの情報だけです」(クボタ)。これを聞いて、驚愕しました。
なぜなら、SL60Aが自動運転をした時に発生するマップと実際のルートの誤差は、わずか数cm。RKT基地局を設置しているとは言え、自動車用のカーナビが平気で何mもずれることを考えれば、精度の高い測位性能といえます。「1区画が狭い日本の圃場においては、10cm以上の誤差があると厳しい」と広報担当者はいいます。なお近い将来、みちびきからの測位情報を使うことで、現在誤差が10cm以下となっているGPS機能付き農機の精度がアップする可能性は高いということです。
ちなみに、SL60A開発時に苦労した点は、ドラマと同じトランスミッションだったのでしょうか。
「それはよく聞かれます。ですが、トランスミッションは一般的なトラクターでも性能をクリアしていなければならない部分です」と、ごもっともな答え。では、どんな点が開発のポイントだったのでしょうか。
「自動運転としては、軟弱地での直進性そのもののコントロールや、旋回後の次工程への位置合わせというところに制御の重点があったと聞いています」(クボタ)。
クボタでは現在、SL60Aの他に、ドラマにも登場した「アグリロボコンバイン WRH1200A」も昨年12月から販売しています。こちらは有人ですが、周囲刈り作業時の走行軌跡で圃場マップを作成し、内側の未刈り領域を後はすべてコンバインが自動で作業してくれるので、大変な軽労化です。
クボタではこの他にも、直進のみサポートしてくれるGPSによる直進アシスト機能付きコンパクトトラクタ(2019年1月発売開始)や、直進キープ機能付田植機(2016年9月発売開始)も販売しており、こちらは低価格ということもあって先行で発売を開始している直進キープ機能付田植機は順調に市場が拡大しているのだとか。
この1月16日には、100馬力の無人自動運転トラクター(SL60Aは60馬力)や、刈り取り作業やもみ排出ポイントへの移動までアシストしてくれるコンバイン、そして植え付けのルートを自動で算出してくれる田植機など、次世代の試作農機を発表しています。
ただ、現状での農業用ロボットはさまざまな使用条件が付けられており、さらなる省力化にはいろいろな問題をクリアしなければならないといわれています。今後、農林水産省をはじめ、国土交通省や経済産業省が民間と連携することによって、日本は世界トップの農業用ロボット生産国になれる可能性を持っているのです。
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Writer: 山崎友貴
自動車雑誌編集長を経て、フリーの編集者に転向。登山やクライミングなどアウトドアが専らの趣味で、アウトドア雑誌「フィールダー(笠倉出版社刊)」にて現在も連載中。昨今は車中泊にもハマっており、SUVとアウトドアの楽しさを広く伝えている。