まるでスバル新型「eアルシオーネ」!? 「WRX」も凌駕するスペック…“1年で作った”スバルの開発車両がスゴイ【後編】
スバルが開発を進める次世代のバッテリーEV(BEV)。エンジンを持たないスバル車は、果たしてどんな走りを見せるのでしょうか。今回テストコースに持ち込まれたのは、異例のスピードとなる「わずか1年」で組み上げられたテストカーです。次世代アイサイトの驚愕の進化とともに、スバルの自動車開発の最前線を山本シンヤ氏がレポートします。
まるでeアルシオーネ!? 驚愕の次世代BEV試乗
以前公開した前編(エンジンなき「スバル車」はどんな車に? “EV時代”でも全く心配なし? ”エンジンの火”も消さない最新の開発状況とは【前編】)では、組織の細分化と「部分最適」への反省から生まれた大部屋開発、そしてそこから創出された次世代の要素技術についてお伝えしました。

では、その大部屋開発は具体的なクルマづくりにどんなイノベーションをもたらしたのか。それを象徴するのが、今回テストコースに持ち込まれたBEV技術検証台車(試作車)が誕生するまでの異例のプロセスです。
デジタル空間での完全なすり合わせ
これまでのクルマづくりでは、設計から試作車を組み上げ、実験部署がテストコースで走らせては問題点を洗い出し、再び設計に戻して作り直すという「試作と手戻りのループ」に膨大な時間を費やしていました。
しかし今回、自らCAEを回し実車試験まで熟知しているスバルのエンジニアたちが大部屋に集結し、すべての物理現象を極限までデジタル空間(CAE)に落とし込んだことで、驚くべき現象が起きました。

前面衝突時の車体変形波形から走行時の車体挙動に至るまで、CAEのシミュレーション結果と実機のテスト結果がほぼピタリと一致したのです。
デジタル空間で「クルマ1台としての最適解」を事前にすり合わせ切った結果、通常なら構想から完成まで2年近くかかる試作車開発を、なんと半分の「わずか1年」で達成。
しかも、今回筆者がステアリングを握った車両は、工場からラインオフしたばかりで、実車での事前の走り込みや足回りのセッティングを一切行っていない文字通りの“一発出し”の素の状態だといいます。
その事実を聞いてから乗り込んだテストコースで、筆者は信じられないような走りを体感することになりました。
外観は“魔改造”…でも中身は?
目の前に用意された技術検証台車は、外観こそローダウンされたアウトバックのボディを切り刻んで強引に被せたような、いかにも実験車両然とした“魔改造テストカー”です。
フロントオーバーハングは極端に切り詰められ、ホイールベースは伸び、ワイドトレッド化された異様なプロポーション。そして、足元には245/40R20のタイヤと大容量のブレーキシステムのアンマッチ感。
しかし、その無骨な外観の下には、ジャパンモビリティショー2025に出品された「パフォーマンス Eコンセプト」で目指した骨格“そのもの”が潜んでいました。
室内に入り、カーボン製バケットシート(STIコンプリートカー・S210の流用品)に腰を下ろした瞬間、心地よい衝撃に襲われます。視界と着座位置が驚くほど低いのです。床下に大容量バッテリーを敷き詰めているBEVにつきまとう「上げ底感」が一切なく、足を前方に投げ出すような本格スポーツカーのドライビングポジションなのです。その感じから、思わず「バッテリーどこ?」と。
インパネは外観同様に切り貼り感満載で、手が届くところに「ブレーキが効かなくなったら押す」と書かれた赤いエマージェンシースイッチも……。そんなフェイズのモデルをメディア関係者に乗せてしまう。そこもスバルが大きく変わった所の1つです。
まるでeアルシオーネ…圧倒的な瞬発力と軽快なコーナリング
アクセルペダルに足を乗せ、わずか数ミリ踏み込んだ瞬間から、背中を力強く、かつ澄み切った滑らかさでグッと押し出されます。前後の大出力モーターが生み出す加速性能は、ペダルを半分も踏み込まない領域で完全にガソリンのWRXを凌駕していることから、未公表ながらもスペックも相当凄そうです。
BEV特有の鋭利すぎる唐突なトルクショックはなく、ペダルを踏み増すストロークにリニアに追従してどこまでもトルクが湧き上がってくる。まさに「eWRX」、あるいはかつてのスバルのフラッグシップスポーツを想起させる「eアルシオーネ」とでも名付けたくなるような圧倒的な瞬発力と伸び感です。

圧巻だったのは、ハイペースでコーナーに飛び込んだ際の挙動でした。 ある程度の車速を乗せてリズミカルにステアリングを切り込むと、フロントヘビー感が完全に消え去っており、まるで「BRZ」のようにノーズがスッとインへ吸い込まれていきます。
クリッピングポイントからアクセルを開けていくと、リヤのモーターが路面を鷲掴みにし、後輪主導で車体をグイグイと強烈に前へ押し出しながらも、前輪も上手に引っ張ってくれるので、まさに「安心と愉しさ」が共存するトラクション。
更にS字コーナーでの素早い切り返しでも、強大なダウンフォースが効いているかのように路面にピタッと吸いつき、左右への揺り戻しが起きません。恐らく、車両重量はバッテリーを含めて2トン近くに達しているはずですが、まるで1.5トン前後の軽量ピュアスポーツを操っているかのように身のこなしは、軽快そのものでした。
荒削りな乗り味が証明する「官能評価」という名の伸び代
と言っても、これで“完璧”というわけではありません。 あくまでこれは、事前チューニングなしの先行開発「台車」です。素性の良さが際立っているからこそ、ドライバーとして細かく探っていくと、市販化に向けてクリアすべきリアルな課題も顔を覗かせました。
真っ先に気になったのは、乗り心地におけるカドの荒さとストローク感の不足です。 路面の段差や目地段差を越えた瞬間、ダンパーの初期の動き出しがやや渋く、突き上げのカドがダイレクトにフロアやシートへと伝わってきます。サスペンション自体がしなやかにストロークして衝撃を包み込むような奥深さはまだありません。

さらに、前後ともに大径の245/40R20タイヤを履き、巨大なブレーキキャリパーとeAxleを抱えていることもあり、「バネ下の重さ」が明確にステアリングやフロアの微振動として跳ね返ってきます。重い足回りがバタつくのをボディ側の剛性感だけで力づくで抑え込んでいるような過渡特性があり、スバルが長年磨き上げてきた「強靭でしなやかな足」の領域には、まだ到達していません。
また、スラロームなどで素早くステアリングを切るときは俊敏に決まるのですが、日常の市街地を走るように「ステアリングをじわーっとゆっくり切り込み、ゆっくり旋回していく領域」では、クルマの動きにわずかな曖昧さを感じました。
具体的にいうと、切り始めの微小舵角に対してサスペンションがスムーズに沈み込まず、フロントが入っていくタイミングとリヤが踏ん張るタイミングに微妙なズレを感じました。そのため、定常円旋回のような一定舵角で曲がっている最中に、旋回姿勢をピタッと決め切るために無意識の修正舵を当ててしまう場面もありました。
しかし、これは決してネガティブな失望ではありません。これらはサスペンションの減衰力特性やブッシュの弾性チューニング、操舵過渡期のトルクベクタリング制御といった「人間の官能に合わせた調律」がまだ一切施されていないからこそ起きている現象です。
今回、クルマとしての骨格・重量配分という“素”のポテンシャルがすでに世界水準にあることは証明されました。だからこそ、ここからスバルのテストドライバーや熟練エンジニアたちが実車で走り込み、スバル伝統の「泥臭い官能の味付け(=魂の注入)」を施すことで、この台車はとんでもない化け物に化ける。その確かな手応えを肌で感じ取ることができました。
ソフトの進化だけでここまで! 驚愕の「次世代アイサイト」
取材会ではもうひとつ、現行型レヴォーグをベースにした「次世代アイサイト実験車」の試乗も行われました。驚くべきは、ステレオカメラなどのハードウェアは現在市販されているモノのままで、「ソフトウェアのアップデートのみ」で制御を進化させている点です。
高速周回路に入り、時速80km/hでクルーズをセットすると、メーターパネルにハンズオフ可の表示が点灯します。従来の渋滞時(50km/h以下)から一気に高速巡航の実用域へと引き上げられました。ここで感心したのはクルマに操作を委ねられる信頼できるコーナリング時の圧倒的なレーンキープ能力です。

Rの厳しいカーブでもまったくふらつかず、外側に膨らむような怖さも皆無。日本の高速道路におけるステアリング支援の最大の難所といえば、曲率のきついカーブと勾配が連続する「東名高速の大井松田~御殿場間(下りルート)」が挙げられますが、このライントレースの正確さと粘り腰なら、あの魔の区間ですら涼しい顔でクリアしてしまいそうな予感すら漂います。
さらに「自動追い越し機能」では、前方に遅い先行車両が現れると、高精度マップとカメラ情報からシステムが周囲の安全を瞬時に判断。ドライバーがウインカー操作すらすることなく、クルマ自らがスムーズに車線変更を行い、追い越しを完了すると再び自律的に元の車線へと滑らかに復帰しました。
そして、ドライバー異常時にハザードとホーンで周囲に知らせながら自律的に安全に路肩へ退避して停車する「ドライバー異常時対応システム」も完璧な動作を披露しました。
あまりの完成度の高さとストレスのなさに、試乗を終えた瞬間「もうこの実験車をこのまま借りて、高速道路を使って自宅まで帰りたくなった」と本気で思ってしまったほどです。
ブレイクスルーの真髄は、ハードウェアではなく「ハートの変革」
そろそろ結論にいきましょう。今回の取材を通して深く実感したのは、「次世代技術の真髄は、ハードウェアの進化以上に“ハート(人や組織の意志)の変革”にあった」ということです。
ダイナミック・スティフネス・コンセプト、超低重心バッテリー、統合ECU……どれも目を見張る先端技術ですが、それらはあくまで技術の「手段」に過ぎません。 本当のブレイクスルーは、前編でも触れた通り、縦割りの壁をぶち破って互いの領域に共感し、本音をぶつけ合える環境を取り戻したことにあります。

全員が「いいクルマを作ろう」という一点に向かってアジャイルに知恵を絞り合う。このプロセスを経ることで、エンジニアたちは自分の担当領域がクルマ全体の価値にどう影響するのかを肌で理解し、「部分最適の職人」から「クルマ全体を語れるエンジニア」へと脱皮していく。
その結果、失敗を恐れず挑戦し、最適解を導き出すこの環境こそ、スバルにとって何物にも代えがたい「最強の人材育成」になっていると感じました。
最新のハードウェアはお金を出せば調達できる時代ですが、クルマに魂を吹き込む「ハート」はお金では買えません。個人的には映画『スター・ウォーズ』で眠っていた力が解き放たれた「フォースの覚醒」ならぬ、六連星のブルーに宿る情熱がふたたび熱く燃え上がった『青の覚醒』と呼びたいくらいです。
この台車、今まではプロジェクトに関わるメンバーですら乗る機会はなかなかなかったと言いますが、今回は関わったメンバー全員がステアリングを握り、そのポテンシャルの高さ、そして自分の仕事の成果を体感したと言います。恐らく、乗り心地の荒さや過渡領域の曖昧さといった、まだ荒削りな台車ゆえの課題すらも、やる気スイッチが全開になったエンジニアたちがこれから魂を注入していくための「伸び代」に過ぎません。
世の中の動きや市場環境が激しく変化するなかで、この技術検証車が将来どのような形の市販モデルとして登場するのかはまだ分かりません。しかし、どのような形で世に出ようとも、この試作車のステアリングを握れば誰もが確信するはずです。「ああ、水平対向がなくても、プロペラシャフトがなくても、これは紛れもなく私たちが愛してきた最新で最良のスバルだ」と。
ハードを超えた“ハート”の力で、この荒削りな原石がここからどう磨き抜かれていくのか。個人的には、1年後、この台車に魂がたっぷりと注ぎ込まれたモデルに再び乗り、その見事な「伸び代」を全身で実感したいなと。今からそんな日が来るのが、心底楽しみでなりません。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。





































































































