トヨタ「ランドクルーザー300」に初設定された「生きて帰ってこられるハイブリッド」の実力とは!? オフロードで試乗 ディーゼル専用「GX」はコストカット版じゃない!? 進化のポイントを解説
トヨタの「ランドクルーザー300」に、待望のハイブリッドモデルが追加されました。単なるエコ目的ではなく、過酷な悪路で真価を発揮する「生きて帰ってこられるハイブリッド」の実力を、自動車研究家の山本シンヤ氏がオフロード試乗で検証します。さらに、ディーゼル専用に刷新されたベーシックグレード「GX」の進化ポイントもあわせて解説します。
ランクル300は改良でどう進化した!?
ランドクルーザーシリーズの頂点として君臨する「ランドクルーザー300」。発売以来、内燃機関のみで展開されてきましたが、2026年9月16日の改良において待望の「ハイブリッド(HEV)」が追加設定されました。
基本メカニズム自体は、先行して兄弟車であるレクサス「LX」(LX700h)に搭載されていたため、「すでに見知ったシステム」と思う方もいるかもしれません。しかし、プレステージと上質な電動フィールを主眼に語られたLXに対し、ランクル300がこのシステムを積んで挑んだのは、どこまでも泥臭く過酷な「命の現場」でした。
結論から言えば、それは単なるエコや高級感のためのハイブリッドではなく、過酷な悪路であればあるほど真価を発揮する、まさに「生きて帰ってこられるハイブリッド」に仕上がっていたのです。
さらに、もうひとつの大注目グレード、ディーゼル専用へと刷新されたベーシックグレード「GX」の展示車両も取材会場で目の当たりにしました。
世間では「一番安価なエントリーグレード」と見られがちですが、その佇まいと中身はコストダウンの産物などではなく、過酷な現場を生き抜くための“リアル・ガチオフローダー”そのものです。

走り出した瞬間から感じるハイブリッドの圧倒的アドバンテージ
今回はHEVモデルにオフロードで試乗、その本質を確かめてきました。
乗用車でおなじみのトヨタのシリーズ・パラレル式ハイブリッド(THS II)は、構造上バックギアを持たず、後退は電気モーターのみで行ないます。しかし、過酷な泥濘地や急勾配のスタックからバックで脱出する際、モーター駆動のみでは熱やトルクの限界から「どんな道でも必ず生きて帰る」というランクルの絶対使命を全環境で保証しきれません。
そこで採用されたのが、3.5リッターV6ツインターボエンジンとトランスミッションの間にクラッチと高出力モーターを挟み込む「1モーター・パラレル式ハイブリッドシステム」です。システム最高出力450ps超/最大トルク約790Nmという怒涛のスペックを誇るだけでなく、エンジン単体とメカニカルなトランスファー・プロペラシャフトによる4WD駆動を完全に維持。
さらに、ハイブリッド化によって懸念されるバッテリーへの浸水リスクに対しては完全密閉の防水構造を施し、従来のランクルと寸分違わぬ「700mmの渡河性能」を死守しています。 万が一、砂漠や冠水路で高電圧バッテリーや電気システムにトラブルが発生しても、オルタネーターとスターターによるエンジン始動とメカニカル4WDだけで走行を継続できる強固なフェイルセーフが組み込まれているのです。
今回の試乗車は、専用の電子制御スタビライザー「E-KDSS」や前後電動デフロックを備えた、300系屈指のオフローダー「GRスポーツ」です。さなげアドベンチャーフィールドの岩山や急勾配セクションに足を踏み入れると、走り出した瞬間にハイブリッドの圧倒的なアドバンテージを体感しました。
通常の内燃機関では、アクセルをじわりと踏み込んでからエンジンの回転が上がり、過給圧が立ち上がってトルクが出るまでにどうしてもわずかな「ラグ(タイムラグ)」が生じます。しかし、このHEVはアクセルに足を乗せたゼロ発進の瞬間から、モーターが瞬時に極太のトルクを立ち上げて車体を押し出してくれるのです。
さらにマルチテレインセレクト(MTS)で「ROCK」モードを選択し、SOC(バッテリー残量)が十分にある状態では、なんとエンジンを停止させたままEV走行で静かに岩山を乗り越えていきます。
エンジンの振動や唸り音がいっさいない静まり返った車内で、足の親指のわずかな力加減だけでミリ単位の速度コントロールが可能。過酷な段差を乗り越える際も「ドカン」と飛び出すことがなく、タイヤが路面を掴むグリップの限界を見極めながら、極めて繊細かつ滑らかにクリアできてしまうのです。
従来の内燃機関モデルでは、過酷な使用環境での信頼性を担保するために油圧式パワーステアリングに電動操舵アクチュエーターを組み合わせた「油圧・電動ハイブリッドパワステ」を採用していましたが、このHEVモデルには本格的な電動パワーステアリングを導入。
油圧特有の重さやフリクション、荒れた路面からの激しいキックバックが巧みに遮断され、ドライバーに必要な路面インフォメーションだけを手のひらに残しながら、岩場でも指先ひとつで正確なライン取りができるようになりました。
GRスポーツが誇る「E-KDSS」による圧倒的なサスストロークの恩恵も絶大で、荒れたモーグルでもタイヤが路面から離れず伸び続け、巨大な岩場をまるで「平坦な小道」に変えてしまうかのような圧倒的な余裕を見せつけてくれました。
ディーゼル専用グレード「GX」の凄みと価格は?
ハイブリッドの上質なプレステージ性に息を呑む一方で、ランクルファンとして改めて声を大にして伝えたいのが、一部改良を機にディーゼル専用グレードへと生まれ変わった「GX」の存在感です。
世間一般の認識では、「ZXやGRスポーツが高すぎるから、装備を削って価格を抑えた廉価版・商用グレード」と思われがちです。しかし、開発陣の思想を紐解き、その実車と向き合えば、それが完全な誤解であることがよくわかります。
GXの正体は、コストカット版などではなく、「世界中の最も過酷な現場で、汚れることを恐れずに使い倒すプロのためのピュア・ワークホース」なのです。
実車を見て真っ先に目を引くのが、フロントマスクの佇まいです。上位グレードのようなギラギラとしたメッキ加飾が控えめで、ブラック基調の落ち着いたグリルを採用。「華美な装飾がないぶん道具感があふれていて、むしろこっちの顔のほうが断然好み!」というファンの声があるのも大いに納得です。
運転席に収まると、インパネ中央に鎮座するディスプレイオーディオの画面サイズが控えめなことに気づきます。やや寂しい感じはするものの、実用本位で清々しい設計です。
ちなみに最上級のZXが豪華なレザーシートや電動サードシートを備えた3列シート(7人乗り)であるのに対し、GXはあえてサードシートレスの「2列シート・5人乗り」のみ。そのため、広大かつスクエアでフラットな最大級のラゲッジスペースが確保されています。
さらにフロアは泥や砂水で汚れても水拭きや丸洗いが容易なタフな素材で仕立てられており、過酷なフィールドギアや救護機材を泥だらけのまま気兼ねなく放り込める実用性も備えられています。
そんなGXの凄みは、見た目だけでなく走りにもあります。豪華さや快適装備、複雑な電子制御デバイスをあえて削ぎ落とす一方で、悪路走破における究極の生命線である「前後電動デフロック」を標準装備。
要するに、路面が泥濘化し、電子制御でも空転を止められない極限のスタック状態に陥っても、物理的に前後・左右の回転差を完全に固定して100%の駆動力を地面に叩き込む。「何があっても絶対に現場から生還できる基本性能」が、そのままこのGXに凝縮されているのです。
そして驚くべきは、その価格設定です。V6 3.3リッターディーゼルツインターボと10速AT、最新のGA-Fプラットフォーム、強靭なサスペンション、そして前後デフロックまで備えていながら、価格(消費税込、以下同)は630万800円。
上位グレードのZXディーゼル(875万円〜)やGRスポーツ(915万円〜)と比べれば250万円以上も安いのはもちろんのこと、250系のディーゼルモデル(ZX:735万円、VX:630万円)や、新世代エントリーであるランクルFJの価格レンジを視野に入れても、「最上位300系がこの価格で手に入ると考えたら、バーゲンプライス!」と言わざるを得ません。
今回は展示車両をじっくりと見学する静態確認にとどまりましたが、無駄を削ぎ落としたそのストイックな佇まいはまさにプロの道具そのものでした。
最上級の快適装備やE-KDSSに頼らず、V6ディーゼルの極太トルクと頑強なシャシー、そして前後デフロックという“素のメカニカルな強さ”だけで悪路をどうねじ伏せていくのか。いつか泥だらけにしてステアリングを握ってみたいと思います。
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先行してLXで世に出た最新のハイブリッドシステムを用いながらも、徹底的に泥臭いフェイルセーフと極低速トルクを研ぎ澄まし、「過酷な岩場を優雅にクリアし、かつ確実に生きて帰る」新たな最高峰を切り拓いた300系ハイブリッド。
そして、華美な装飾を排し、過酷な現場で道具として生き抜くためのデフロックと頑強さを研ぎ澄ませた、バーゲンプライスとも言えるディーゼルGX。
一見すると対極に位置するこの2台ですが、その根底にある哲学はまったく同じです。それは、他社のSUVのように「装備の豪華さ」や「数字のカタログスペック」でライバルと張り合うことではなく、「どんな過酷な道であっても、乗る人の命と荷物を運び、必ず無事に帰ってくる」というランクルの絶対使命をどう具現化するかという問いに対する、異なるアプローチの回答に過ぎません。
街中のスマートな移動から、地球の果ての未踏峰まで…。300系のラインナップには、上級も廉価もなく、すべてに命を預けるに足る確かな必然が息づいています。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。








