日産の「最大・最上級クーペ」がスゴい! 全長5m級でV8エンジン搭載!? 超豪華「ソファシート」も採用する幻の高級車「TRI-X」とは

日産はかつて「最高級クーペ」のコンセプトモデルを開発していました。未来を見据えた先進技術と贅を尽くした装備が与えられたこの「幻のクルマ」は、どのような姿をしていたのでしょうか。

「幻の最高級クーペ」その驚くべき中身とは

 過去を振り返ると、モーターショーには、その時代の夢や希望を映し出す数多くのコンセプトカーが登場しました。

 中でも1991年の第29回「東京モーターショー」でワールドプレミアを飾った日産「TRI-X(以下、トライエックス)」は、日本の自動車産業が自信の絶頂にあった時代を象徴する、伝説的な一台として語り継がれています。

後席シートの豪華さがスゴい!
後席シートの豪華さがスゴい!

 トライエックスは、日産が「21世紀のラグジュアリークーペ」の本流を目指して開発したコンセプトカーです。その核となる思想は「レスポンシブル・ラグジュアリークーペ」。

 これは、走る楽しさや快適さといったクルマ本来の魅力と、環境への配慮や安全性といった社会的要請を高いレベルで両立させるという、当時としては極めて先進的なものでした。

 まず見る者を圧倒するのは、その堂々たるボディサイズです。全長4995mm×全幅1900mm×全高1350mmという寸法は、当時の日産の最高級セダンであった初代「シーマ」をも上回る大きさでした。

 しかし、そのデザインはコンセプトカーにありがちな奇抜さとは無縁で、市販化を強く意識させる、流麗かつ優雅なスタイリングが与えられていました。

 インテリアは、まさに「4人のためのサンクチュアリ(聖域)」と呼ぶにふさわしい空間が広がります。ベージュを基調とした内装には本木目パネルが贅沢にあしらわれ、穏やかで上質な雰囲気を演出しています。

 最大の特徴は、乗員の身体を優しく包み込むように設計された、4座独立設計の専用本革バケットシートです。

 まるで高級ソファのようなこのシートは、大人4人が長距離を最高レベルの快適性で移動できるよう徹底的に作り込まれていました。

 そのボンネットの下には、この巨体を動かすにふさわしい心臓部、最高出力320馬力を発生する4.5リッターV型8気筒エンジンが収められていました。

 さらに注目すべきは、このエンジンがガソリンだけでなくメタノール燃料にも対応する「VH-X型メタノール対応エンジン」であったことです。

 パフォーマンスだけでなく、代替エネルギーという未来の課題にも真摯に向き合った、まさにコンセプトを体現するパワートレインでした。

 トライエックスには、後の時代に標準となる先進技術も惜しみなく投入されていました。

 前方の路面をカメラで読み取りサスペンションを最適に制御する「プレビューアクティブサスペンション」や、ドライバーの視線移動による疲労を軽減する「遠方結像電子メーター」、そして日本舞踊の動きを参考にしたユニークな「動き演出ワイパー」など、枚挙にいとまがありません。

 これほどまでに完成度の高いトライエックスは、日産が1980年代半ばから推進していた「1990年までに技術の世界一になる」という目標、通称「901運動」と、バブル景気の熱狂が生んだ究極の産物でした。

 発表から30年以上が経過した現在でも、トライエックスはSNSなどで定期的に話題となります。多くのファンが、今なお日産にこのような野心的なフラッグシップクーペの登場を待ち望んでいることの表れでしょう。

 しかし、これほどの期待を集めながら、トライエックスが市販されることはありませんでした。

 最大の理由は、1990年代初頭に訪れたバブル経済の崩壊でした。

 経済の急激な悪化により、高価格な贅沢品の市場は瞬く間に冷え込み、同時に日産自身も深刻な経営不振に陥りました。コストを度外視したかのような贅沢な造りのトライエックスは、もはや日産が許容できる存在ではなくなってしまったのです。

※ ※ ※

 市販という形で私たちの前に姿を現すことはなかった幻の最高級クーペ、トライエックス。

 それは、日産の技術的野心と、バブルという時代が生んだ壮大な夢の結晶として、今も自動車ファンの記憶の中で輝き続けています。

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Writer: 佐藤 亨

自動車・交通分野を専門とするフリーライター。自動車系Webメディア編集部での長年の経験と豊富な知識を生かし、幅広いテーマをわかりやすく記事化する。趣味は全国各地のグルメ巡りと、猫を愛でること。

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