トヨタのスポーツカー史にその名を刻む「セリカ」。1970年の初代登場から2006年の生産終了まで、36年にわたり7世代を数えたこのクルマは、時代の価値観とともに進化を続け、日本のスペシャルティカーを象徴する存在となりました。

　特に世界的な評価を高めたのが、WRC（世界ラリー選手権）での活躍です。「セリカGT-FOUR」はアフリカの過酷なサファリラリーを制し、1990年代にはWRCで3年連続のドライバーズタイトルと2年連続のメーカータイトルを獲得。ラリー界の王者として黄金時代を築きました。

　その一方で、セリカは若者文化の象徴でもありました。1987年に公開された映画「私をスキーに連れて行って」では、白い4代目セリカGT-FOURが主役級の活躍を見せ、自由や冒険、そして憧れの象徴として多くの若者の心を捉えました。

　そんな伝説的なセリカの復活を、誰よりも熱望していたのが、“モリゾウ”こと豊田章男会長でした。2023年以降、豊田会長はさまざまな場で「もう1回欲しい」と繰り返し語ってきました。そして2024年11月の「ラリージャパン」の会場で、その想いは中嶋裕樹副社長による「セリカ、やっちゃいます」という力強い宣言として結実します。

　ファンの熱意と、クルマを愛するリーダーの情熱に応える形で、新型「GRセリカ」のプロジェクトは、ついに公然の事実となったといえるでしょう。

　これまでに報じられている情報を総合すると、新型GRセリカは、トヨタのモータースポーツ部門「TOYOTA GAZOO Racing」が手がける高性能AWD（全輪駆動）クーペとして開発が進められているようです。

　搭載されるエンジンは、最高出力400PS超を発生する新開発の2.0リッター直列4気筒ターボエンジンとなり、GRヤリスやGRカローラをも凌ぐスペックとなる可能性があります。欧州のプレミアムスポーツとも渡り合える実力を備えることになりそうです。

　駆動方式には、やはり4WDシステム「GR-FOUR」が採用されることでしょう。トランスミッションは、6速MTに加えて8速ATの設定が考えられます。

　エクステリアは、最新のトヨタ車に共通する「ハンマーヘッド」デザインのフロントマスクを備えた、流麗な2ドアクーペになるのではないでしょうか。

　登場は、2025年秋の「ジャパンモビリティショー（JMS）」でのプロトタイプ発表を経て、7代目の生産終了から20年となる2026年の発売が有力視されています。価格帯はGR86とGRスープラの中間にあたる600万円台前半が中心になるとの見方があります。

　そして2025年2月、トヨタはこの復活劇をより印象づける、巧みな演出を行いました。「私をスキーに連れて行って」の舞台である苗場（新潟県湯沢町）で開催されたイベントにおいて、劇中に登場した白いセリカGT-FOURのレプリカを展示。実際に雪上を走行させるという粋な演出で、かつて映画のセリカに憧れた世代のノスタルジーを刺激しました。

　この展示は、かつての伝説を現代に蘇らせるという、トヨタの強い意志の表れでもありました。

　新型GRセリカの復活は、単なるスポーツカーの再来ではありません。WRCを制した王者のDNAと、一時代を築いたカルチャーの象徴という、2つの輝かしい歴史を現代の技術で融合させる壮大なプロジェクトです。

　トヨタは、クルマそのものではなく、”セリカ”という名が持つ“物語”と“体験価値”を、現代のファンへと届けようとしています。JMS2025では、その第一歩となる新たな発表が行われるかもしれません。