疲れない日産「新型エルグランド」か豪華さのトヨタ「アルファード/ヴェルファイア」か!? 似て非なる“高級ミニバン”の賢い選び方とは【試乗Deep Eyes】

16年ぶりに全面刷新された日産「エルグランド」と、市場の絶対王者トヨタ「アルファード/ヴェルファイア」。宿命の対決と思いきや、公道比較試乗で見えてきたのは全く異なる進化のベクトルでした。疲れない走りを極めた「グランドツアラー」か、圧倒的な豪華さを誇る「大容量サルーン」か。似て非なる2台の高級ミニバンの本質と賢い選び方を、自動車研究家の山本シンヤ氏が解説します。

異なる進化を遂げた高級ミニバン、公道試乗でわかった本質とは?

 かつて高級ミニバン市場の頂点に君臨しながらも、良く言えば「長い沈黙」、悪く言えば「放置」だった日産「エルグランド」が、実に16年ぶりに全面刷新されました。

 となれば、2023年に4代目へと進化し、国内のみならずグローバルでも圧倒的な存在感を放つ絶対王者・トヨタ「アルファード/ヴェルファイア」(以下、アルヴェル)と比べたくなるでしょう。

 16年ぶりの宿命の対決とあれば、「勝ち負け」を決めたくなるかもしれません。しかし、両方の最新モデルを公道でじっくりと走らせた筆者の結論はちょっと違います。

 実は両車、似ているようで、見据えているベクトルがまるで違う。この違いを紐解いていくと、日本の高級ミニバンが目指す進化の本質が見えてきます。

トヨタ「アルファード」と日産「新型エルグランド」を比較!

 両車の根本的な違いは、クルマづくりのアプローチです。

 TNGAプラットフォームをフル活用して刷新された現行アルヴェルは、歴代が築いた「大空間の価値」に欧州プレミアムセダンに匹敵する走りを合致させることをテーマに開発。

 ショーファーカーとしての資質を磨き上げ、2列目の極上空間(エグゼクティブラウンジなど)をはじめとする「後席のもてなし」をベースに、ドライバーズカーとしてもストレスなく直進し、スッと自然に曲がる「Confident & Natural(トヨタ全車共通の走りのテーマ)」な走りを確立しています。

トヨタ「アルファード」
日産「エルグランド」

 対する新型エルグランドの開発テーマは「ビジネスクラス・グランドツアラー」です。歴代モデルはもちろん、そのご先祖様にあたるキャラバン/ホーミーのVG30搭載車から脈々と受け継がれてきた日産のDNA、すなわち「スカイライン」にも通じる「GTカー」の思想をミニバンに落とし込んだ1台です。

 ここで誤解してほしくないのは、単なるドライバー偏重の走り屋ミニバンではないという点です。

「走る・曲がる・止まる」というクルマの基本素性を磨き上げることで、結果として車体の姿勢変化を抑え、同乗者の頭の揺れを防ぎ、クルマ酔いをなくして全乗員を快適にするというエンジニアリングアプローチをとっています。これが新型エルグランドの真骨頂でもあります。

「高容量グランドツアラー」と「大容量サルーン」

 実際に走らせてみると、その乗り味のキャラクターは驚くほど対照的です。

 新型エルグランド最大の武器は、第3世代「e-POWER」に4輪駆動力制御「e-4ORCE」、そして「インテリジェントダイナミックサスペンション」の“三種の神器”をリンクさせる統合制御です。

 加減速時には前後モーターの綿密なトルク配分でノーズダイブやスクワットを抑え、ステアリングを切れば内輪ブレーキと外側ダンパーの減衰力を瞬時に最適化して、巨体を意識させずノーズがスッとインを向く。ドライバーは最小限の修正舵で思い通りのライントレースができ、後席の乗員も頭を左右に揺さぶられません。

 路面からの入力をしなやかにいなし、フラットな姿勢を崩さずどこまでも走っていきたくなるフィーリングは、まさに「高容量グランドツアラー」そのものです。

エルグランドはまさに「高容量グランドツアラー」!

 一方のアルヴェルは、まさに「大容量サルーン」です。改良でこれまで上級グレードのみの採用だった「周波数感応型ダンパー」が全車標準化されたことで、シリーズ全体の微振動の収束や初期アタリが劇的に改善され、ベースグレードでもしっとりとした乗り心地の底上げが図られました。

 その上で、アルファードとヴェルファイアの個性分けも明確です。ロールを上手にコントロールしながら穏やかにいなして往年の高級セダンを思わせるしなやかさを見せるアルファードに対し、ヴェルファイアはダイレクト感重視の味付け。

 中でも2.4リッターターボモデルは、レクサス「LM」からお裾分けされた専用のフロントパフォーマンスブレースの補剛の効果も相まって、ステアリング操作に対する応答性は抜群で、ミニバンであることを忘れさせるほどドライバーズカーとしての資質を高めています。

 ただしその反面、引き締められたサスペンションが路面の突き上げをダイレクトに拾いやすく、後席の快適性という点では少々割り切りが必要な傾向も見受けられます。

 なお、シリーズ頂点に君臨するPHEV(プラグインハイブリッド)は、床下バッテリーによる低重心化(マイナス35mm)と専用サスペンションにより、「センチュリー」や「クラウンセダンFCEV」にも通じる「カドのない極上のまろやかさ」を実現しており、サルーンとしての完成度では突出しています。

トヨタ「アルファード」
トヨタ「ヴェルファイア」

室内空間にも違いがはっきり! 使い方や求める役割で変わる選択

 室内空間にも両者それぞれの思想がはっきりと表れています。

アルファードの内装

 アルヴェルの強みは、ドアを開けた瞬間に誰もが一目で圧倒される分かりやすい豪華さです。飛行機のビジネスクラスを思わせるエグゼクティブラウンジシート、大型14インチディスプレイ、緻密に作り込まれたおもてなしの装備の数々は、ショーファーカーとしての説得力にも満ちています。

エルグランドの内装

 対するエルグランドは、パッと見の派手さはアルヴェルに劣るものの、過度なギラつきを排し、実用性と居住性に重きを置いています。前席から後席にかけて徐々に着座位置が高くなる「シアターレイアウト」によって、前方の抜けもよく、3列目でも開放感があります。

 1・2列目に採用された「ゼログラビティシート」は体圧分布に優れ、長距離移動での疲労も最小限。さらにシート横のスペースを有効活用できる設計や、横揺れに強いシート形状など、リアルワールドでの使い勝手や「座る自由度」においては、グランドツアラーとしての良心をひしひしと感じます。

 冒頭で述べた通り、この勝負は単なる優劣をつけるものではありません。個人的には、移動時間そのものを優雅にくつろいで過ごし、極上の空間とおもてなしに身を委ねたいならアルファード/ヴェルファイア。

 一方、どこまでも遠くへ、ドライバーもストレスなく走りを楽しめ、同乗者も揺れずに疲れない長距離ツーリングを求めるならエルグランド。つまり、どちらが上か下かではなく、使い方や求める役割で選ぶべきだということです。

カギは“本質的な走りの価値”を届けられるかどうか

 互いに目指す頂が異なるからこそ、市場に健全な選択肢とライバル関係が戻ってきたことを心から歓迎すべきでしょう。

 ただし、日産にとっての本当の戦いはここからです。

 トヨタ陣営の「選択肢の広さ」は抜け目なしです。ガソリン、HEV、2.4リッターターボ、PHEVを揃えるアルヴェルに加え、その頂点には、2.4リッターデュアルブーストHEV+ダイレクト4を搭載し、さらなるラグジュアリーな世界観を誇るレクサス LMまで控えています。まさに盤石のピラミッド型“高級ミニバン包囲網”が敷かれているわけです。

 これにエルグランドが単一モデルの孤軍奮闘で立ち向かうのは容易ではありません。

日産「エルグランド」
トヨタ「アルファード」

 個人的にはエルグランドの持つ「GTカーの素性」をより引き上げる「NISMO」の投入(現時点では公言していない)、日本のクラフトマンシップとプレミアム感をさらに研ぎ澄ませた「AUTECH」、さらには「VIP」の中身をより充実させたモデル(コスメだけではない特徴をプラス)など、日産のサブブランドや特装部隊の強みを含めた「群」としての戦略を展開していく必要があると感じます。

 新型エルグランドのシャシー統合制御による「揺れない・疲れない走り」という最大の強みは、スペック表やショールームでは逆に弱みになってしまうケースもあります。

 日産がこの本質的な走りの価値を、いかにユーザーの心へ届けていけるか。「ハードだけでなくハートもしっかり伝えてほしい」と筆者(山本シンヤ)は強く主張します。

 筆者は使う人、使うシーン、走る道によって、どちらも王者になれる素質を持っていると評価しています。それに対して最終ジャッジをするのは、他でもない皆さんです。

【画像】日産「エルグランド」とトヨタ「アルファード/ヴェルファイア」を画像で詳しく見る!

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Writer: 山本シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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