「疲れずに、無事に帰ってくる」ための進化! 新型「パジェロ」で追求した“悪路快適性”とは? “復活の核心”に迫る!【開発者VOICE】

過酷な悪路を走り抜くだけでなく、乗る人に我慢や緊張を強いず、快適に帰ってこられること。7年ぶりに復活した三菱の新型「パジェロ」には、歴代から受け継ぐ明確な開発思想がありました。新たなフレームや電子制御を採用し、「悪路快適性」をいま改めて追求。その真意を、開発陣の言葉から紐解きます。

“現代のパジェロ”をつくるために最適な選択とは?

 7年ぶりに復活、日本で2026年10月29日に正式発表された5代目となる新型「パジェロ」。発表会場の熱気の中で、筆者(山本シンヤ)がこのクルマに関わったスタッフと膝を突き合わせて話す中で最も胸を打たれたのは、彼らが置かれていた「開発のリアルな制約」と、それに対する「技術者としての意地」でした。

三菱「新型パジェロ」

 現代の自動車開発において、ゼロから専用シャシーや専用エンジンを起こすことなど、どのメーカーにとってもハードルが高い時代です。当然、ルノー日産連合に属する三菱自動車も使えるリソースや材料には明確な枠組みがあるのも事実でしょう。

 しかし、そんな状況下でも「手段(構造やデバイス)は時代に合わせて変わっても、パジェロが目指すべき目的(本質)は歴代から何ひとつブレていない」という、確固たる開発思想は健在でした。

 かつて3代目・4代目パジェロが選んだ道は、ビルトインモノコック構造と4輪独立サスペンション。オンロードでの操縦安定性と悪路での追従性を両立するための、当時の三菱にとっての「ベストな手段」でした。

 それに対して今回の新型は、「トライトン」で新開発されたラダーフレームをベースに、リヤに5リンク・コイルリジッドサスペンションを組み合わせるという、一見すると先祖返りにも思えるアプローチを採っています。

新型パジェロ専用に開発されたラダーフレームを採用
リヤサスペンションも専用開発。5リンク式リジッドサスペンションとした(フロントはダブルウィッシュボーン式)

「なぜ今、再びフレームなのか?」

 質疑やその後のオフレコに近い立ち話のなかで筆者が投げかけた疑問に、開発陣の答えは非常に明快なものでした。

「ビルトインフレームや4独サスというのは、あくまで当時の技術で快適性と走破性を両立させるための『手段』に過ぎません。パジェロが達成すべき『目的』は何かと言えば、過酷な悪路を平然と走り抜け、乗っている人を疲れさせず、生きて無事に帰ってくること。

 現代の進化したフレーム設計技術と、電子制御(S-AWC)、そしてサスペンションのストロークを活かせば、このパッケージこそが今できる最もタフで、最も快適なパジェロを作れるベストな手段だったんです」

 制約があるから妥協したのではない。手元にある最高の素材(新世代フレーム)を徹底的に煮詰め、パジェロ専用のクロスメンバー追加や補強を行い、ホイールベースやトレッドの黄金比を導き出し、極上の快適性としなやかさを引き出す。それこそが、彼らが見つけ出した現代の解法だったのです。

“リラックスして遠くまで行ける”ことが真髄

 パジェロでパリダカを制したチーム三菱ラリーアート総監督の増岡浩氏も、新型のメカニズムに対してこのように語っています。

「独立懸架にすれば『バネ下重量が軽くなるから乗り心地が良くなるはず』とみんな頭でっかちに考えます。しかし、いまのうちのリジッドはショックアブソーバーの減衰やブッシュの進化、サスペンション全体のいなし方が恐ろしく良くなっています。

 バネ下が重いとかリジッドだからどうこうなんて、実際に乗ったらまったく関係ないレベルに仕上がっていますよ」

チーム三菱ラリーアート総監督の増岡浩氏(左)と三菱自動車の岸浦恵介社長

 パワートレーンも同じです。かつての3.5リッター/3.8リッター V6ガソリンや3.2リッターディーゼルではなく、新型に積まれたのは2.4リッター直列4気筒クリーンディーゼルターボと8速AT。厳しい排ガス規制への対応やダウンサイジングの流れの中で、選択されたモノです。

 実はこのエンジンはAXCRを戦うトライトンに先行投入され、実戦を通じて鍛えられた知見やノウハウがフィードバックされています。そんな彼らが徹底的にこだわったのは「悪路快適性」でした。

2.4リッター直列4気筒クリーンディーゼルターボを搭載
三菱「新型パジェロ」

 プログラムデザインダイレクターの吉峰典彦氏は、増岡氏との対話についてこう明かしてくれました。

「ラリーで真に求められるのは、華麗なドライビングテクニック以上に『いかに疲れずに、楽にゴールへたどり着けるか』。増岡からそう教わりました。

 ドライバーに我慢や緊張を強いるクルマは、本当のオフローダーじゃない。どんな荒れた路面、どんな悪天候であっても、車内では普段通りに会話を楽しみ、リラックスして遠くまで行ける。それこそがパジェロの真髄なんだと」

 新型パジェロに初めて与えられた車両運動統合制御「S-AWC」も、まさにその思想の具現化と言えるでしょう。難所を力任せにねじ伏せるためではなく、ドライバーが制御の介入を意識することなく、まるで自分の運転が上手くなったかのように自然に、安全にラインをトレースさせる。

 時代によって形やシステムが変わり、どれだけハイテクになろうとも、すべては「誰もが安心して、快適に冒険を楽しめる」という初代からの目的に直結しているのです。

今後の発展性やモータースポーツへの期待への受け止めは?

 筆者は発表会の質疑応答セッションで2つの直球の質問をぶつけました。 1つ目は、世界展開における「ネーミング」についてです。

「世界約100カ国へ順次展開していく計画とのことですが、国や地域によってはかつて『モンテロ』や『ショーグン』と呼ばれた歴史もあります。今回のモデルはグローバルで『パジェロ』のネーミングで統一して展開していくのでしょうか?」

三菱自動車 商品戦略本部 チーフプロダクトスペシャリストの板垣邦俊氏

 これに対し商品企画を担当する板垣邦俊氏は、「一部、言語の都合がある地域を除いては、基本的にはグローバルで『パジェロ』という名のもとに大半を展開していきます」 と力強く答えてくれました。

 これまでのように地域ごとの都合で呼び名を変えるのではなく、三菱のフラッグシップとして“パジェロ”というブランドそのものを世界に堂々と打ち出していくという強い覚悟が伝わってきました。

 そして2つ目。三菱ファンなら誰もが気になる「今後の発展性やモータースポーツへの想い」です。

「今回はロングボディ×ディーゼルという、ある意味で選択と集中を感じるラインナップです。かつては『パジェロ エボリューション』のような伝説的なモデルもありましたが、今後もっとトライしてみたいこと、エボのような進化への期待はどう受け止めていますか?」

 少し踏み込んだこの質問に、板垣氏は笑顔を見せながらも、熱い本音を覗かせてくれました。

「まずは今回の立ち上げに全力を集中させていますが、社内でもラリーアートやモータースポーツへの想い、ファンの皆様からの『またラリーで活躍する姿が見たい』という熱い声は重々承知しています。

 私自身、商品担当として『もっと色々トライしてみたい』という夢は当然持っています。発売後の皆様からの反響や声をしっかり受け止めながら、ライフサイクルのなかで何かできるか、可能性を考えていきたいですね」

正式発表前から想定を遥かに超える反響!

 現在、この熱い開発陣の想いに市場は凄まじい熱量で応えています。

 国内商品戦略担当の木村龍哉氏によると、正式発表の時点で予約受注はすでに5500台を突破。当初掲げていた年間の国内販売目標(4000台)を、なんと発売前、発表日の時点で軽々と達成してしまったのです。

 価格帯(消費税込)は619万3000円〜795万800円。決して手頃なプライスのクルマではありません。しかもその予約の内訳を聞いて、さらに驚かされました。最上級グレードの「SUPER EXCEED」(795万800円)が全体の7割以上を占め、さらに購入者の約8割が他社や新規からの流入だというのです。

三菱自動車 国内営業本部 国内商品戦略部 主任の木村龍哉氏

 そして何より衝撃的なのは、この5500人という数字が、「まだ誰もステアリングを握って走らせていない」段階で積み上がったという事実です。

 この点について、別の機会の質疑応答で筆者が「まだ走らせてもいないのに、これだけの人が買ってくれたことへの自信」を直撃した際、まず木村氏が、驚きと喜びを込めてこう答えてくれました。

「正直に申し上げて、私たちの想定を遥かに超える反響をいただいています。まだ走りを体感していただいていない『見て、触れて』いただいた段階で、これだけの決断をしていただけた。

 実車を目の前にしたときの圧倒的な存在感や佇まい、インテリアの質感の高さに触れて『これなら間違いない』と実感していただけた結果だと受け止めています」

 続いて、板垣氏も噛みしめるように力強い言葉を重ねてくれました。

「ものづくり側としても、非常に大きな自信を持っています。先行展示での静止状態のパッケージ、堂々としたデザインや上質な仕立て、乗り込んだ瞬間の見切りの良さだけで、私たちが注ぎ込んだ『本物のパジェロの説得力』がお客様にしっかりと届いたのだと実感しています。

 もちろん、動的性能(=走り)に関してはさらに自信を持っていますから、実際に乗っていただければ、その期待をさらに超えて驚いていただけるはずです」

 走らせる前、ただショールームでドアを開け、シートに座り、スクエアなボンネットを見渡しただけで、「ああ、これは本物だ」と5500台分のユーザーに確信させた。これこそが“ブランド”の重要性でしょう。

三菱「新型パジェロ」

 実は、筆者は取材タイミングの都合上、この原稿を執筆している時点ではまだ新型パジェロのステアリングを握れていません。しかし、開発現場のエンジニアやデザイナー、そして商品企画の面々と言葉を交わし、その熱量と理論的な裏付けに触れた今、はっきりと確信しています。

「このパジェロの走りは、絶対に期待を裏切らない」

 手段は変わった。けれど、その胸に宿る魂と、クルマが目指す頂は、40年以上前に生まれた初代パジェロのそれと寸分違わず同じです。

「新型は上質に進化させましたが、乗ってみてやっぱり『ああ、パジェロだよね』と言ってもらえること」

 開発陣が誇らしげに語ったその約束を自らの身体で確かめる試乗の機会が、今から待ち遠しくてたまりません。そして納車を心待ちにしているファンの皆さん、期待値を最大まで引き上げて待っていて大丈夫です。本物の三菱、そしてフラッグシップの三菱がいよいよ走り出します。

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Writer: 山本シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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