スバルのイメージアップに多大な貢献をした初代インプレッサWRX

 スバルといえば「シンメトリカルAWD」という水平対向エンジン+AWDというメカニズムを提唱していますが、その起源は1971年に少数がつくられた「ff-1・1300Gバン4WD」です。

 その後、スバルはいわゆる「生活四駆」の元祖である「レオーネ」を発売し、1980年代までは同社の主力車種でした。

WRCで勝つことを目的に開発された初代「インプレッサ WRX」とは

 しかし、レオーネは旧態依然とした設計で、1980年代の高性能化に遅れを取りました。そのため販売台数の減少から、スバルの経営状態も窮地に追い込まれ、倒産するのではという噂も出たほどです。

 そんな危機的状況を打開したのが、1989年に誕生した初代「レガシィ」で、セダンとステーションワゴンを設定。上位グレードには高性能なターボエンジン+フルタイム4WDのパワートレインを搭載し、大ヒットを記録しました。

 そして、次の一手として1992年に誕生したのが、レオーネの実質的な後継車である初代「インプレッサ」で、さらに高性能モデルの「インプレッサ WRX」も誕生。

 後に凄まじい進化の歴史を刻むことになる序章という存在の初代インプレッサ WRXを振り返ります。

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 前述の初代レガシィは、そのポテンシャルの高さを証明してアピールするために、1990年シーズンから世界ラリー選手権(WRC)へ参戦。勝利することは市販車の販売にも影響するため、日欧のメーカーが競い合う状況でした。

 レガシィも優勝を含む結果を残しましたが、ライバルが強さを見せつける状況で、そのためラリーマシンをインプレッサ WRXにスイッチ。

 インプレッサ WRXは単なるスポーツグレードではなくWRCで勝つために開発され、走りにおいて高い評価を得たのは、やはり水平対向エンジン+フルタイム4WDの組み合わせが大きな要因のひとつに挙げられます。とくにエンジンは、レガシィGT RSに搭載されていたボクサーターボをベースに改良して最高出力240馬力/最大トルク31.0kg-mを発生。

 この名機「EJ20型ターボ」のポテンシャルは、フルタイム4WDシステムを介して路面に忠実に伝達され、あらゆる場面でスポーツドライビングを存分に味わわせてくれました。

 サスペンションは、フロントがストラット、リヤをデュアルリンクストラットとした4輪ストラット式を採用。標準車の時点で高度な操縦安定性を実現していましたが、WRXは高出力に対応するために、専用スプリングとショックアブソーバー、さらに専用のブッシュを採用して強化を図っています。

 ステアリングギア比も標準車の16:1に対し、WRXでは15:1とすることでよりクイックなハンドリングを実現。

 ボディサイズは全長4340mm×全幅1690mm×全高1465mm、ホイールベースは2520mmとコンパクトで、車重が1200kgと軽量だったことも、卓越した走りに貢献していたことは間違いないでしょう。

 車内はセダンとしての快適性や、実用性を重視したつくりがなされていました。運転席まわりはフローティングラインを基調とした伸びやかなデザインを採用。フロントガラスエリアの広さも相まって、開放感のある気持ちのいい空間となっています。

 トランクスペースは353リッターの容量が確保され、6:4分割の可倒式トランクスルー構造によって長尺物の積載も可能です。トランクリッドがバンパーの真上から開く大きな開口部としたことで、大きく重い荷物もスムーズに積み降ろしすることができました。

 こうした居住性や使い勝手のよさといったセダンならではの利点も、インプレッサ WRXの人気を支えた要因といえるでしょう。

 デビュー当初、WRXはセダンにのみ設定されていましたが、1993年にはスポーツワゴンにもWRXが設定されました。実用車のワゴンでありながらスポーティに走れるという、まさにスバル車のイメージアップに多大な貢献をし、ヒットモデルとなりました。

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 インプレッサ WRXは、それまでファミリーカーというイメージが強かったセダン(ワゴン)に、走りのイメージを植え付けました。家族のために泣く泣くスポーツカーを手放したユーザーにとって格好の選択肢として歓迎され、「セダン(ワゴン)でも走りにこだわる」という風潮を広げることになったのです。

 WRXに搭載された技術、それらが実現したパフォーマンスのレベルがいかに高いものであったかは、1995年のWRCで初の制覇、そして1997年までマニファクチャラーズ選手権で3連覇という偉業によって証明されました。

 そして、インプレッサ WRXに急激な進化をもたらしたのは、最大のライバルである三菱「ランサーエボリューション」の存在でしょう。

 2021年8月8日に閉幕した東京オリンピックでは数多くの日本人アスリートが活躍しましたが、やはりライバルの存在が大きく、互いに切磋琢磨することで能力を高めた結果といえます。

 その後もインプレッサ WRXとランサーエボリューションは、今では考えられないスパンで改良を繰り返し、そして互いに進化していきました。

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