なぜマツダはEV専用工場を作らない?
マツダの電動化戦略において特徴的なのが、バッテリーEVにおいても専用工場を持たず、既存の生産ラインを活用する点です。
弘中氏は「バッテリーEVを生産するなら、工程数が少ないので専用工場を作る方が効率的ではないか、とよく言われます。しかしマツダには専用工場は必要ありません」と説明します。
その理由として、「ものづくり革新1.0」ですでに生産ラインの工程数を4割削減していることと、バッテリーEVとエンジン車を混流生産できる生産基盤がすでに出来上がっていることを挙げています。
「また当社のようなスモールプレイヤーにおいては、混流生産で生産ラインの稼働率を100%にすることが最も賢いやり方だと考えています」と弘中氏は強調します。
マツダはこの既存の生産基盤を最大活用した「ライトアセット戦略」で電動化の黎明期を乗り越える方針です。

「ものづくり革新1.0」以前のマツダでは、開発がまず車種ごとの構造設計を行い、その後で生産が工程設計を行うという流れでした。
このため、車種ごとに生産工程や設備が異なり、新たな車種を投入するたびに新しい設備を導入する必要がありました。
弘中氏によれば、「生産ラインは非常に車種が限定されていて、また、そのライン内で全ての部品を組み付けていたため、非常に工程数が多く長いラインでした。そのため、車種が増えるたびに工場追加やラインを増設する追加投資が必要で、また車種の需要変動により稼働率が低下していく課題がありました」とのこと。
これに対し、「ものづくり革新1.0」では、5年から10年先に必要となる商品技術を一括で企画し、車種開発の構造設計段階から開発と生産が一緒になって、車種間で構造基準や部品の組み立ての順番、組み付け方法などの作業工程を共通化しました。
「それを前提にした生産設備を導入することで、車種あるいは世代を超えて混流生産できるメインラインを作ってきたのです」と弘中氏は説明します。
また、車種によって作業手順や工程数が異なるパワートレインや内装のインパネなどの部品群はサブラインでモジュール化し、メインラインで搭載する仕組みとしました。
こうした取り組みにより、メインラインは非常にシンプルで短くなり、工場数4割減を実現。生産ラインの柔軟性が圧倒的に高くなり、高い稼働率を実現できるようになったのです。