シンメトリカルレイアウトに「4WD」が追加されたのは、東北電力のある一言
水平対向エンジン+シンメトリカルレイアウトに「4WD」がプラスされたのは、東北電力のある一言が発端でした。
「山間部の総電線の点検用に『ジープ並みの積雪地での走破性(=四輪駆動)』と『乗用車の快適性』を両立したクルマが欲しい」
このリクエストを地元の販売会社の宮城スバルに相談すると「やってみましょう」となります。なぜスバルはそれをできると思ったのかと言うと、それはスバル1000のシンメトリカルFFレイアウトにありました。
「縦置きトランスミッションの後ろに、後輪を駆動させるメカニズムをプラスさせることで4WD化が可能」と言う理屈で、日産車(ブルーバード)の駆動系とサスペンションを流用しながら現物合わせで試作車を製作。
完成後に豪雪地で知られる山形県の月山やスキー場で試験を行ないジープとの比較もされましたが、東北電力のオーダー通りの仕上がりだったと聞きます。
この試作車を元に、富士重工で本格的な設計・開発がスタート。第18回東京モーターショーで「スバルff-1 1300バン4WD」として発表。このモデルこそが、スバル初となるシンメトリカルAWDモデルとなります。
とはいえベース車両のff-1はモデル末期だった事もあり8台の試作車に留まりましたが、その後に登場した新型車「レオーネ」にそのシステムを搭載。初の“量産”乗用4WDが誕生しました。
しかし、この時代の四輪駆動は悪路走破性の向上が主で、オンロードでの走行性能向上に関してはあまり注目されていませんでした。
その理由は当時のスバル車の基本性能の低さでした。1970年代に排ガス規制を乗り越えた日本車は、1980年代に大きく成長を遂げますが、スバルだけはその流れに乗れず、むしろ他社による買収や倒産の危機と報道されるほど厳しい局面に立たされていました。
この当時、スバルの主力モデルはレオーネでしたが、ライバルに対して全く歯が立ちませんでした。それもそのはずで、見た目は近代化されていたものの、肝心な中身は1966年に登場したスバル1000用を長らく改良した物で旧態化は否めず、優れた基本素性を活かせていなかったのです。
ちなみに最新のレオーネにはターボやフルタイム4WDシステムなどライバルと同じ武器を投入していましたが「焼け石に水」と言う状況でした。
「このままでは『技術のスバル』とは言えない」と言う危機感は会社全体に広がり、この時から「クルマで勝負」、「本気でいいクルマを造る」と言う流れになったと言います。そんな経緯で生まれたモデルが、開発コード「44B」と呼ばれた初代レガシィでした。
開発コンセプトは単純明快「日本で一番いいセダン/ワゴンを作る」でした。
その実現のために、プラットフォームはスバル1000以来となる全面新設計を実施。サスペンションには4輪ストラットが奢られました。エンジンにもスバル1000と同じ水平対向ながら完全新設計となるEJ型が開発されました。
開発手法にも大きくメスが入り、これまでの「縦割り&技術主導」から「プロジェクトチーム制」へと変更。更に走りの味付けは一人の実験担当者の“神の声”に委ねられました。
その人とは、現在STIに所属する辰己英治氏です。彼はベンチマークとしてメルセデス・ベンツ「190E」を徹底的に解析。更にプライベートで参戦していたダートトライアルでの経験を活かし、舗装路でも通用する「曲がる4WD」を作り上げました。
その後のスバル車の走りは言うまでもないでしょう。特にインナーフレーム構造を用いた「新世代スバルグローバルプラットフォーム(SGP)」を採用した新型レヴォーグの走りは「正常進化」ではなく「激変レベル」で、ハンドリング/快適性共に1ランク、いや2ランク以上のレベルアップを果たしています。
つまり、水平対向エンジン+シンメトリカルAWDと言う優れた基本素性は、基本性能の底上げによってその実力を更に高めているのです。
ただ、勘違いしてほしくないのは、水平対向エンジン+シンメトリカルAWDはスバルにとって「目的」ではなく、スバルらしい走りの実現のための「手段」であると言うことです。
その証拠にトヨタと共同開発された電気自動車「ソルテラ」は、水平対向エンジン+シンメトリカルAWDではありませんが、スバルの技術トップである藤貫哲郎氏は「ソルテラに乗ると『あっ、スバルだ!!』と感じる走りに仕上がっていますので安心してください」と語っています。
つまり、スバルの「安心と愉しさ」の本質は長きに渡って水平対向エンジン+シンメトリカルAWDの開発によって培ってきた「秘伝のレシピ」にあると言うわけです。
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