数値に表れない性能を評価するには「人」が必要
現在の自動車開発は分業制になっています。「効率」という意味では大きなメリットを生んでいますが、組織が細分化されたことでクルマ全体を見ることのできる人が少なくなってしまっているのも事実です。
もう少し具体的に説明すると、自動車メーカーのなかでの「クルマ離れ」が深刻になっており、「ブレーキ屋」「エンジン屋」「制御屋」のような各アイテムのプロは数多く存在するのですが、「クルマ屋さん」が育ちにくい環境になっているといいます。
スバルは中期経営計画でさまざまなプランを発表しており、なかでも注力しているのが「スバルブランドを磨く」ことです。そのひとつがスバルの「安心と愉しさ」という価値を提供するための商品・技術の強化といえるでしょう。
スバルは古くから「走りを極めれば、安全になる」と提唱しており、理想の走りの実現に向けて日夜開発に取り組んでいますが、その成果のひとつが2016年登場の5代目「インプレッサ」から投入された「スバルグローバルプラットフォーム(SGP)」です。
その後、SGPは「フルインナーフレーム構造」へとバージョンアップし、各モデルの世代交代のタイミングに合わせて順次、展開が進められています。
SGPはスバルの安心と愉しさを「感動レベルに引き上げる」ことを目標にしていますが、スペックや数値のような絶対値だけではダメで、「何を安心と感じるのか?」「何を愉しいと感じるのか?」という、数値に表れない性能も大事になってきます。それを具体的にするためには、やはり「人」の能力が重要になってくるのです。
筆者(山本シンヤ)は同じ耐久消費財でありながらも、クルマと家電が決定的に異なる部分は、機械でありながらも人間味を感じるところだと思っています。
その鉄の塊に“魂”を吹き込む役目を担うのが、車両の評価をおこなう「テストドライバー」です。
各メーカーに「この人あり!」という名物テストドライバーがいるのですが、実はスバルには存在しません。
「長きにわたってスバル車を鍛えてきた辰己英治さんや渋谷 真さんは違うの?」と思う人もいると思いますが、彼らはテストドライバーではなくエンジニアなのです。
実はスバルの開発は「乗って(運転スキル)」「感じて(評価能力)」「考えて(理論的思考)」「物理にする(計測技術)」を分業せずに一貫してできる人材が強みです。
これはスバルの前身となる中島飛行機時代からの伝統で、「ドライバーの評価能力以上のクルマは作れない」という考えがあるそうです。
しかし、これまではこのような人材育成は個々の裁量でおこなわれており、「スバルとして育てる」という意味では、プログラムがシッカリ構築されていなかったのも事実でしょう。そうしたエンジニアたちの運転スキルと評価能力を高める活動が「スバルドライビングアカデミー(SDA)」です。
2015年9月に創設されて以来、所属部署やジャンルを問わず100人以上が受講しており、講習内容はテストコースやサーキット、氷上路での走行訓練はもちろん、社外講師による“心技体”のレクチャー、クルマ全体を知るための車両整備など多岐にわたります。
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