S耐「菅生」はドラマがあった!? レースは「人の繋がり」で走れる! マシンは「CN燃料」が進化! GR86&BRZは何が変わった?
カーボンニュートラル燃料が変わった! S耐最短「3時間レース」の行方は?
2023年7月8日・9日に「スーパー耐久シリーズ 第3戦 菅生」が開催されました。
そこにトヨタ(参戦はルーキーレーシング)とスバルは、「カーボンニュートラル燃料」を使った「GR86」と「SUBARU BRZ」で参戦していますが、3時間の耐久レースではどのようなドラマがあったのでしょうか。
第2戦は、2023年5月末に開催されたS耐最長となる「富士SUPER TEC 24時間レース」でした。
その長丁場をほぼノントラブルで走り切った28号車「ORC ROOKIE GR86 CNF Concept」(以下GR86 CNFコンセプト)と61号車「Team SDA Engineering BRZ CNF Concept」(以下BRZ CNFコンセプト)ですが、今回の第3戦はS耐最短となる菅生での3時間耐久レースです。
今回はクラスが2つ(Gr.1/Gr.2)に分けられ、3時間×2のレースとなっています。
まずマシンは富士からどのような進化を遂げたのでしょうか。
共通した変更項目の中で大きなアップデートは“改良された”カーボンニュートラル燃料(以下CN燃料)を使用している点です。
参戦当初からドイツ・P1レーシング製のCN燃料を使用されています。
P1製CN燃料はWRCでも採用されていますが、S耐用は量産化が目的のためJIS規格に適合するように性能調整されています。
レースを通じて1年以上のトライと分析をフィードバックにより、「大きくメスが入った」わけです。
これまでのCN燃料と何が違うのでしょうか。GRパワトレ開発部の小川輝氏に聞いてみました。
「通常のガソリンとCN燃料、一番の違いは気化(液体から気体になる)する温度……つまり蒸留特性の違いです。
CN燃料はその温度がガソリンよりも高いことから『燃え辛い』という問題がありました。
燃えなかった燃料はシリンダー内に残り、オイル希釈(シリンダーとピストンの隙間を通じてオイルパン内に入りエンジンオイルを薄める)や燃費の悪化。
更にHC(ハイドロカーボン)が出やすいなど、様々な問題がありました。そこに手を入れたのが新CN燃料というわけです」
これまでのレースにおいて、ガソリンとカーボンニュートラル燃料を使った時のエンジンの性能差を両チームのドライバーに聞いてみると、「言われなければ違いは分かりませんよ」との事でしたが、実際はエンジンの内部ではこのような現象が起きていたのです。
ちなみにP1レーシングのCN燃料は炭化水素系バイオ燃料と呼ばれるもので、成分はガソリンに限りなく近いのですが完全に同じではなく余計な成分も入っているといいます。それがエンジン内部に様々な影響を及ぼしていたのでしょう。
そんな課題に対して、「燃料を改善すべきか? それともエンジン側で対応すべきか?」とい議論をトヨタ/スバルで1年近く行なってきたわけですが、そのフィードバックを元に改良されたのが今回の新CN燃料なのです。
「具体的な成分のことは言えませんが、新たな性能調整により燃料が気化する温度が従来のCN燃料と比較すると市販のハイオクガソリンにかなり近い特性になっています。
その結果、オイル希釈は半分くらいに減少、HCの排出も減少しています。
この改良されたCN燃料を実際にサーキットで試してもらい、性能の確認を進めていくことで更なる改善につなげていきたいと思っています」(前出の小川氏)
これまでCN燃料開発はGR86(直列3気筒ターボ)とスバルBRZ(水平対向4気筒)で行なってきましたが、次戦(オートポリス)からマツダ「ロードスター(直列4気筒)」も新たな仲間として加わることが決定。
この開発のゴールは量産化ですので、様々な形式のエンジンで試すことで開発スピードが上がることを期待したいところです。