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「マセラティの黒歴史ビトゥルボ」が壊れても壊れても愛される理由

辣腕ビジネスマン、デ・トマゾの勝算を体現したマセラティとは?

 2021年は自動車史上に冠たる名作、あるいはエンスージアストの記憶に残るクルマたちが、記念すべき節目の年を迎えることになった。苦境にあえいでいたマセラティを傘下に収めたアレッハンドロ・デ・トマゾが、名門救済の策として送り出した「ビトゥルボ(BITURBO)」もその1台だ。初公開は1981年12月14日におこなわれたので、今年でちょうど40周年を迎えることになる。

 今回は「マセラティの黒歴史」ともいわれてしまいがちなビトゥルボに愛情の想いを込めつつ、その誕生に至るストーリーをお話しさせていただくことにしよう。

  • 1981年12月に公開された、元祖「ビトゥルボ」のオフィシャルフォト

 1981年、かつてマセラティ兄弟が自らの工房を立ち上げたのと同じ12月14日に、当時マセラティの社主であったアレッハンドロ・デ・トマゾがデビューさせた「ビトゥルボ」は、デ・トマゾの鋭いビジネス嗅覚を体現した、とても意欲的なモデルだった。

 1970年代後半に発生した第二次オイルショックと、それに伴う燃料価格の高騰は、高級車市場に大きな影響を及ぼした。とくに会社の規模が小さく、生産台数も少なかったイタリアのスーパーカー専業メーカーへの被害は甚大。この種のブランドでは最古参であるマセラティも、仏・シトロエンの傘下に収まりながらなんとか延命を図っていたものの、親会社たるシトロエンそのものも経営危機に陥り、プジョーとアライアンスを組むことになったことから、マセラティははしごを外されたかたちになってしまう。

●豪奢でスポーティな「ビトゥルボ」誕生

 そのマセラティを1976年に買収したデ・トマゾが送りだしたビトゥルボは、それまでのマセラティ製グラントゥリズモたちと比べると明らかに小柄。同時代のBMW・E21系「3シリーズ」に近いサイズのコンパクトな車体に、「Bi-Turbo」の名が示すとおり、市販車としては世界で初めてツインターボを装着した2リッターV型6気筒エンジンを搭載する。

 そんなスーパーカーはだしのエンジンで、名門マセラティの名に相応しいパワーと豪快なフィールを獲得した上に、レザーとエルム(楡材)ウッドパネルによる、当時のミドルクラスの常識を超えた豪奢なインテリアまで与えることで、マーケットに絶大なインパクトをもたらしたのだ。

 BMW・E21型3シリーズよりも少しだけ幅広で、全長はやや短めというコンパクトなボディは、イタリア車らしい華やかさと上品さを体現した佳作。4人が快適に移動できるキャビンを持ちつつも、強めのウェッジシェイプや鋭いノーズが、クーペに近いスポーティさも印象づけていた。

 このボディについては、同じマセラティでも上級にあたる3代目「クアトロポルテ」との近似性がありありと見受けられることから、デビュー当時はイタルデザイン、ジウジアーロの作であると伝えられることも多かったと記憶している。

  • 初期型ビトゥルボのインテリアは、モケットと天然ウッドパネルで構成されるが、まだ金時計はつかなかった

 しかし、実際に手掛けたのはデ・トマゾ配下のコングロマリット全般でデザインワークを受託していたスタイリスト、ピエランジェロ・アンドレアーニ(Pierangelo Andreani)だったことが判明しているようだ。

 アンドレアーニは、フィアット・チェントロスティーレ在籍時代に「リトモ(RITMO)」、ピニンファリーナに移籍したのちには「モンディアル8」の草案にも参画。さらにデ・トマゾ・グループに請われた後には、同じく傘下のモトグッツィで「ル・マンIII」、ベネリでは「Sei900」などのデザインも主導したことで知られるスタイリストである。

 ファミリーの開祖たる「ビトゥルボ」は、当初は1996ccの90度V型6気筒SOHC・18バルブ(気筒当たり3バルブ)+IHI(旧石川島播磨重工業)社製ツインターボにより、同じマセラティの「メラク2000GT」を10ps上回る、180psの最高出力を獲得した。

 この排気量設定は、当時2000ccを越える乗用車に車両価格の38%の特別税が課せられていたイタリア国内市場を見越したものであり、翌1982年には海外マーケット向けに190psの2.5リッターユニットも設定される。

 また1984年には、2トーンのボディカラーや本革レザーインテリアをスタンダード化するとともに、エンジンのパワーを増強した「E」仕様、さらに翌年にはインタークーラーを装備した「S(輸出向けはES)」も追加されるなど、目まぐるしい勢いで進化を遂げてゆくことになる。

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Gallery【画像】生誕40周年を迎えた「ビトゥルボ」を振り返る(14枚)

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