VAGUE(ヴァーグ)

ポルシェで南極に挑む女性ドライバー! 雪上用に改造された「356A」に込められた思いとは

雪原仕様のポルシェ「356A」に秘められた思いとは

 アメリカのコロラド州デンバーに本拠を構えるヴァルキリー・レーシング。ヴァルキリーといってもそれは、アストンマーティンのハイパーカー・プロジェクトとは何も関係はない。

 ここでの主役となるのは、それまではまったくレース経験がなかったという女性ドライバーのレニー・ブリンカホフと、1台の1956年式ポルシェ「356A」である。

 ヴァルキリー・レーシングは、2012年から「プロジェクト356ワールドラリー」と呼ばれる活動を開始。レースにもラリーにも一切の経験がなかったレニーは、まずポルシェのエクスペリエンス・センターでドライビングの基礎を学び、耐久レーサーとして有名なハーリー・ヘイウッドからドライビングの基礎を学んだ。

  • 雪上を走るために改良されたポルシェ「356A」

●「356A」でのラリーは慈善事業に捧ぐ

 同時にマシンも、最初にエントリーを決めたカレラ・パンアメリカーナに参戦するためにさまざまな改良が施された。ロールケージやよりパワフルなエンジン、そして専用のサスペンションセッティング。ギアボックスも4速から5速に変更し、エントリー初年の2012年には、見事にコースの一部区間を走り切ったのだ。

 もちろん次なる目標はカレラ・パンアメリカーナの完走。その夢は翌2013年に叶い、さらに彼女は女性としてクラス優勝を果たした初のドライバーとなった。

 2015年になると、さらなる活躍を目指して彼女は新チームのヴァルキリー・レーシングに移籍するが、クラッシュによってラリーに参加できない日々が続く。だがそのレースに出場できない日々は、レニーにとってひとつの大きなアイデアを生み出す大きな、そして貴重な日々となったのだ。

 そのアイデアとは、ヴァルキリー・レーシングを中心に、「ヴァルキリー・ギブス」と呼ばれる慈善団体を設立、これまで目にしてきた貧困や人身売買の撲滅を目的に、「プロジェクト・356ツアー」を実現することである。

 世界7大陸で開催される6つのラリーでこのプロジェクトを計画し、プロジェクトが話題になるにつれて、ポルシェのエキスパートである「タットヒル・ポルシェ」もマシンの開発や製作に協力を惜しまないようになった。

 2017年は、カレラ・パンアメリカーナ、2018年はアンデス山脈を臨むカミノス・デル・インカ、そして2019年には北京・パリとイーストアフリカン・サファリ・クラッシックに参戦。一方で設立以来ヴァルキリー・ギブスには20万ドル以上の寄付が集まり、それもまたレニーのモチベーションを大きく高めていた。

 そして2021年、レニーはもっとも過酷なラリーを走破する決断を下した。それは7大陸のなかでもっとも過酷な大陸である南極大陸でのラリーである。

 彼女の356Aはこの白い大陸を走破するためにさまざまな改良が施され、フロントタイヤに代えてスキーが、またリアタイヤに代えてクローラーが装備されることになった。

 ちなみにリアの両方のトラックを安定させるために、コイルオーバーのサスペンションを備えたシングルアームサスペンションを使用するなど、その改良策は気象環境を考えて非常に凝ったものとなっている。

 フロントのスキー板も、溶接鋼構造にリベットで留められた、航空機グレードの鋼でできている。またフロントのカーボン製ネットは、クレパスへの落下を防止するための安全装備である。

 これらのコンポーネントの推奨速度は40km/h。50mmの軟雪の深さで1.2psiの最大接地圧が確保されるという。南極では世界中のサポーターのコミュニティがレニーを出迎え、最低356ドルの寄付をおこなう計画となっている。

 各寄付者の名前は、クルマのボンネットの内側に刻まれ、その名前を撮影した写真と彼らへの感謝を記念する専用の「南極アイスチャレンジ356」のキャップがお礼として贈られることになっている。

 神の声に人生をつき動かされたレニー。ポルシェ356との厳しいラリー・アクティビティは、まだまだ続きそうだ。

>> ポルシェ・356 の中古車をさがす

Galleryスキー仕様のポルシェ「356A」を【画像】で見る(20枚)

RECOMMEND