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カギを握るのは「アプリ」? BALMUDAのスマホ業界参入は市場に何をもたらすのか

「デザイン」と「ストーリー」による“体験”で成長を遂げたバルミューダ

 石川氏が語る「何か」とは、バルミューダにとって「ユーザー体験」であることは間違いない。バルミューダはどのメーカーよりも“体験”を重視し、その体験を向上させるためのものづくりを追求し、プレスリリースやパンフレット、ポップアップストアなどさまざまなユーザー(メディアを含めた)接点を通じて消費者に訴求し続けてきたからだ。

  • バルミューダのエポックメイキングな扇風機「The GreenFan」

●デザインに加え、アプリの使い方に活路を見出す可能性も?

 外側の羽根と内側の羽根の気流が互いを打ち消し合うことで、ムラのない“面の風”を送り出せるということを訴求した2010年発売の扇風機「The GreenFan」は、それまでにはない風の心地よさとデザイン性の高さに加えて、省エネ性の高いDCモーター搭載が東日本大震災後の省エネ需要に合ったこともあり、約3万円という高価格製品でも大ヒットを記録した。

 確かに、「心地よい風を生むことで、“枯れた家電”であったはずの扇風機が再注目される」というストーリーは、家電メーカーとしてのバルミューダの出発点のひとつではあった。しかし、バルミューダブランドの方向性が大きく変わったのは、2015年の「BALMUDA The Toaster」発売からだろう。

 寺尾社長が高校を中退して17歳でスペインを訪れたときに出合った街のパン屋のパンに涙した体験。「感動的なトーストを焼けるトースターを作りたい」という漠然とした思いのなかでトースターの開発を進めていたときに、社員と実施した土砂降りのなかのバーベキュー大会で炭火で焼いたトーストの味。それを再現しようとして突き詰めていったら「水分」が重要だということに気付き、スチームトースターにたどり着いた……そういうストーリーだった。

 こうした体験価値を、「BALMUDA Technologies」ブランドの新たなスマホ端末はどのように提供するのか。端末デザインももちろん重要だが、その鍵は「アプリ」にあると寺尾氏は語っていた。

「私たちは日常的にすごく多くの時間をスマホに使っていますが、使っているアプリは決して多くありません。私たちが調べた範囲内でも、何千種類どころか、何百種類も使っている方もいません。結局普段使いのアプリに集約されてくる方向にあるのですが、その普段使いのアプリこそ、より便利になっていい。私の解釈では、普段使いのアプリはiPhoneが発明されたときから変わっていません。その変わっていない状況にチャンスがあるのではないかと思います。何らかの優れたアイデアを実装した普段使いのアプリが従来より使いやすく、使っていて気持ちいいという状況になれば、私達が今目論んで臨んでいる素晴らしい体験をスマホで得られるというところに繋がっていくと考えています」(寺尾氏)

 昨今のスマホ端末は大画面化が進む一方で、狭額縁化、薄型化が進んでおり、ほぼ「ディスプレイそのもの」のようなデザインになりつつある。もちろんLGの2画面スマホやモトローラの「motorola razr 5G」のような折りたたみスマホなど、一般的なスマホとは違うデザインを採用する端末も一部にはある。

 しかし、どのようなフォームファクターの端末がベースになったとしても、「バルミューダならではのデザイン性」を加えようとすると、大きくて厚くなる可能性がある。もちろん、すべてのユーザーが「大画面だけどできる限り小さく(狭額縁)薄い端末がほしい」というわけではないので、成功する可能性は十分にあるが、「スマホ」と「個性的なデザイン」の親和性は決して高くない。

 バルミューダは国内でも、さらに韓国市場でも一定の成功を収めているのは、同社が提案してきた体験価値とそれを包含するブランド価値がユーザーに認知され、高い価値を持つものだと理解されてきたからに他ならない。

「The GreenFan」で家電事業に、そして「BALMUDA The Toaster」で現在の主軸であるキッチン家電に進出したバルミューダだが、すべての製品が順風満帆にヒットを飛ばしてきたというわけではない。しかしカテゴリーを広げながらブランド価値が高まり、事業全体が急成長を続けていることは確かだ。

 より高集積な機器を取り扱う「BALMUDA Technologies」ブランドの製品として誕生するスマホがどのような製品になるのかは未知数だが、これまでにも一貫して筋のとおったものづくりを続けてきたバルミューダなので、多くの消費者が驚きを持って受け入れるようなものを作ってくる期待感は高い。

 5月の発表から3カ月経った8月6日の決算説明会でも、情報のアップデートはほとんどなかったが、11月にどのような製品が登場するのか、心待ちにしたいところだ。

Gallery【画像】バルミューダが参入するスマホ事業のポイントを探る(5枚)

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