VAGUE(ヴァーグ)

「界 アルプス」に泊まって分かった選ばれる理由 信州の“ふるまい文化”に癒される

北アルプスの玄関口にあるくつろぎの宿へ

 長野自動車道の安曇野ICを下り、犀川を右手にしばらく北上。北アルプスパノラマロードに変わったあたりで道路の右手は高瀬川になり、フロントガラスの先には北アルプスの山々が姿を現した。登山が目的ではなくとも、夏の青空に鋭く切り込むかのような山々の稜線を見るのは、なんとも清々しい気分にしてくれる。

 大町温泉郷の入口へとステアリングを右に切ると、誰もがイメージする温泉街という景色は見当たらない。真っ直ぐ続く道路の両側に宿泊施設が点在し、まるで高原の別荘地のような雰囲気。その理由は、1960年代から計画的に作られた温泉地であるからだろう。

 600mほどクルマを走らせると、アスファルトの路面が真砂土舗装に切り替わり、宿場を現代に蘇らせたような光景が広がった。ここが今回の目的地「界 アルプス」である。

  • 都内からアルファ ロメオ「ステルヴィオ」で「界 アルプス」を訪ねた。建物の先には、北アルプスの山々が連なっている

●check in/「界 アルプス」のストーリーへ

 道路の両側に建つ行燈のようなデザインをした常夜灯が、「界 アルプス」の目印。ふたりのスタッフが旅人を歓迎してくれ、駐車場へと案内してくれた。

 チェックインカウンターは、向かって左側の建物だ。通りに面した軒から庇を設けた“雁木”は雪国ならではの知恵だが、強い日射しを遮ってくれるので、真夏においてもその恩恵に与ることができる。

 この回廊のような雁木の下をとおってフロントへ。切妻屋根の和風建築であるけれども、フロントはモダン。空間の半分は梁や垂木の姿をそのまま見せる吹き抜けになっており、フロアカウンター側の消炭色の壁には直方体の行燈のような照明が、まるで北アルプスの夜空に瞬く星のように配されている。

 フロントに足を踏み入れた瞬間から、旅人は「界 アルプス」の紡ぎ出すストーリーに知らないうちに引き込まれてしまうという演出だ。

  • 48室ある“ご当地部屋”のなかのスタンダードな客室、“信濃もてなしの間”に宿泊した

●room/信州をさりげなく演出

 星野リゾート温泉旅館ブランド「界」では、地域の文化を感じられる“ご当地部屋”を用意しているが、界 アルプスの48室ある客室は、すべてがご当地部屋だ。冬場に宿泊したい暖炉付きの“離れ”もあるが、今回宿泊したのはもっともスタンダードな“信濃もてなしの間”だ。

 広さ42平方メートル、1名から3名での宿泊が可能な和室タイプ。和室といっても、ローベッドが用意されているので、ホテルの洋室のように使用することが可能だ。

 部屋は、ベッドが置かれている場所とリビングは畳敷き。踏込で靴を脱いでホールに上がると、そのまま部屋の一部までフローリングとなっている。和室ではあるものの、畳敷きから一段下がったこの“通路”と呼ばれるスペースがあることで、滞在中に部屋を効率よく使うことができる。たとえば、スーツケースはこの通路に置いておくとよいだろう。

 また、掘り座卓を採用しているので、いわゆる旅館の和室のイメージとはほど遠い。ちょうどホテルの洋室と純和室の中間のようなつくりは、とても寛げる空間に仕上がっている。

 さて、どこで“ご当地”を表現しているのかといえば、入口に設けられたあかりとりやベッド横の行燈に、地元伝統工芸の松崎和紙が用いられていた。また、ベッドライナーやソファ、クッションは上田紬で設えられている。

 額装されているアートワークは、地元の切り絵作家・柳沢京子氏の作品。スタッフに聞くと、「アルプスの麓の詩情」をテーマに、全室異なる作品が飾られているそうだ。さらに食事処棟の玄関には大きな作品が掛けられており、お腹を空かせた旅人をやさしく出迎えてくれる。

  • 海の幸と合わせた“ローストビーフと信州サーモンの鳴門”
  • 今回いただいた「鍬焼き会席」の一部

●food/信州らしさを食材で

 食事は、柳沢京子氏の切り絵に迎えられる食事処棟でいただく。すべての席が和紙ガラスが嵌め込まれた格子で仕切られているので、ほかの宿泊客に顔を合わせることなく料理を楽しむことができる。

 コロナ禍において、個室仕立ての席で食事ができるのはなんとも安心感のあるものだが、オープン当初からこうしたプライベートな空間で料理を提供しているとのことだった。

 さて、肝心の料理はといえば、こちらもご当地の食材を巧みに取り入れた会席となっている。夏と秋は「鍬焼き会席」、冬から春にかけては「雪鍋会席」が提供される。今回いただいたのは、「鍬焼き会席」だ。

 先付けは、わさびの葉を模した若緑色した器に盛られた、“ローストビーフと信州サーモンの鳴門”。信州サーモンとは初耳だったが、ブラウントラウトとニジマスを掛け合わせたご当地の品種だそうだ。自ら摺り下ろしたわさびを少量のせ、オリジナルブレンドの醤油につけてひとくち。ローストビーフのほどよい歯応えの次に、信州サーモンの脂が口の中に広がる。最後にわさびの香りが爽やかな後をひかない余韻をもたらしてくれた。

 このあと、目にも楽しめる煮物椀、八寸の“宝楽盛り”、揚げ物、蓋物、と続き、メインの“鍬焼き”の登場だ。

 鍬焼きとは、農具の鍬を鉄板がわりに使って、農作業の合間に料理したことがルーツ。鍬の形をした鉄板で、信州牛と鶏、キノコや野菜を焼いて食べるという趣向だ。大きな胡桃がトッピングされていて、胡桃味噌だれで食べるのが信州らしいアレンジだ。

 ラストの甘味は、信州産の林檎を使ったシャーベットで締めくくり。最初から最後まで、食材で存分に信州を味わい尽くすという会席であった。

Next四季を通じて“信州”に触れることができる宿
Gallery【画像】どこか懐かしい「界 アルプス」とは(34枚)

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