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建築家・隈研吾はなぜ工芸に目覚めたか? 建築の発想と素材から誕生した暮らしの道具

世界的な建築家は人々の暮らしをも考えていた

 隈研吾氏が監修した暮らしの道具が登場した。隈氏といえば、先頃生まれ変わった国立競技場や、高輪ゲートウェイ駅などの公共施設をデザインした日本を代表する建築家。キャリア初期には、マツダのサブブランド「M2」のデザインラボとして機能した「M2ビル」の設計を手掛けるなど、それぞれの時代において印象深い建物を次々と生み出してきた。

 隈氏が手がける作品は、周辺の環境や文化に溶け込む建築を目指し、ヒューマンスケールのやさしく、やわらかなデザインが特徴。また、ポスト工業化社会の建築のあり方も追求しており、コンクリートや鉄に代わる新たな素材が積極的に使われている点も興味深い。

 そんな隈氏が今回着目したのは、意外にも、暮らしの道具=工芸品だった。しかしそこには、建築との深い関係性があるという。

 実は隈氏は、近年、「建築デザインというのは、建物のデザインのことではない。建築デザインとは生活のデザインでなければならない」と考えるようになったのだとか。その背景には、建築を取り巻く状況の変化があった。「高度成長下の建築は、単に作ればいい、大きく高く作ればいいという状況だった。しかし今の建築は、それとは全く対照的だ。作ることが目標ではなく『そこでいかに暮らすか』を考えることが、今の建築家たちの目標となっている」と語る。

 そして、人々の暮らしを見つめるなか、隈氏は工芸品に着目するようになる。「工芸は暮らしにもっとも近い。工芸を変えることで僕は暮らしについて考え、提案したい」と、隈氏は今回のプロジェクトに対する思いを語っている。

  • 隈研吾氏が開発に携わった暮らしの道具「Kuma to Shika」

●建築の発想や素材使いが生むユニークな商品群

 今回、隈氏とともにコラボレーションプロジェクト「Kuma to Shika(くまとしか)」を始動させたのは、隈氏が「今の時代の工芸を追求している」と評価する中川政七商店だ。

 享保元年(1716年)に創業した同社は、手績み手織りの麻織物を扱い続けている奈良の老舗。近年は「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げ、工芸をベースにした生活雑貨の製造と小売りをおこなっているほか、産地の地域振興にも取り組んでいる。

 今回発表された「Kuma to Shika」第1弾の商品ラインナップは、以下の通りだ。

■組木の飾り棚
 組木の技法を幾何学的に解釈して生まれた飾り棚。パーツを組み合わせるだけで意外な表面起伏の棚が立ち現れる。付属のフックで複数の棚を連続して壁にかければ、複雑な表面起伏の壁面を表現できる。8800円(消費税込、以下同)

■和紙の折りタペストリー
 荒々しい木のチップを和紙にランダムにすき込むことで生じる、紙が原料の木に戻ったかのような質感が魅力。幾何学パターンを反復することで、折り紙のように畳んで収納できるようにした。5万5000円

■銅のはつり折敷
 オノで木の表面をけずり取ってならす、“はつり”と呼ばれる原始的な手法は、江戸時代頃まで建材用の木材加工に欠かせない技術だった。そんな“はつり”で生じる模様を写し取り、薄い銅板上に再現したのがこのフチ付きのお盆。普段の食事から祝いの席まで活躍しそうだ。1万7600円

■飛散防止シートのバッグ
 建築現場において、建物の養生などに使われる飛散防止用のメッシュシートを素材に用いた台形のトートバッグ。プリーツ加工が施されているので簡単に折り畳める。各サイズともグレー、ホワイトの2色。中=各6380円、大=各7700円

■飛散防止シートのフラットポーチ
「Kuma to Shika」のロゴが入ったポーチ。素材には、飛散防止用メッシュシートに加え、奈良の特産品である蚊帳(かや)にも使われる目のあらい薄織物“かや織”をビニールコーティングしたものを使用。各サイズともグレー、ホワイトの2色。A4=各2750円、A3=各3300円

■タイルのマグネット
 建物の外壁や内壁などに使用される美濃焼のタイルをアレンジしたマグネット。単調になりがちな壁の表面にリズムを生み、空間や暮らしのなかに視覚的な奥行きを与えてくれる。1650円

■植物で染めた花ふきん(クマザサ/スギ)
 蚊帳(かや)に使われる“かや織”は、風通しに優れる上に乾きやすい素材。そんな特性を持つ素材でつくったふきんを、“ボタニカル・ダイ”と呼ばれる染色技法を用いてクマザサとスギで染めている。各1320円

■かや織ガーゼハンカチ(クマザサ/スギ)
 植物を使った特殊な染色技法“ボタニカル・ダイ”を使い、クマザサやスギで染めた“かや織”のハンカチ。素材特有のおだやかな色合いながら、色落ちしにくいため長く使えるのがうれしい。各1320円

 いずれのアイテムにも、日本の建築シーンで見られる発想や、素材使いの妙が散りばめられている「Kuma to Shika」のコレクション。隈研吾ファンや建築マニアはもちろんのこと、雑貨好きの人々にも注目して欲しいラインナップだ。

Gallery隈研吾氏が開発に携わった暮らしの道具を写真でチェック(11枚)

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