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黒川紀章の「中銀カプセルタワービル」が分割されて宿泊施設に!? 「再活用」プロジェクトの始動

「メタボリズムのコンセプトを引き継ぎ、次に繋げる」という設計思想の継承

 解体が予定される中銀カプセルタワービルの「メタボリズムのコンセプトを引き継ぎ、次に繋げる」という、設計思想の継承としての「再活用」プロジェクトの始動が、2021年7月2日に発表された。

 その発表によると建物をそのままの姿で保存するのではなく、カプセルを取り外して美術館等への寄贈や、宿泊施設等で再活用する計画だという。

  • 1972年竣工当時のオリジナルの内装を残したカプセル

●解体決定、カプセルは取り外して再活用

 1972年に竣工された中銀カプセルタワービルは、メタボリズム思想の建物として国内外問わず高い人気を誇る建築物である。数十年間にわたり、建て替えかカプセルの交換かの議論が繰り返されてきた経緯を持つが、2021年3月に管理組合での敷地の売却が決議。現在、住人の退去と区分所有のカプセル売却が進行中となっている。

 そこで、同プロジェクトでは数年前から国内外のファンドやデベロッパーとの打ち合わせをおこない、建物を一棟丸ごと購入。カプセルを交換し保存できるよう交渉を続けてきたのだが、2020年からの新型コロナウイルスの影響により話し合いはすべて中断を余儀なくされた。

 そのため約35年間、大規模な修繕はおこなわれておられず、安全性の問題が無視できない状況を管理組合やオーナーと話し合い、敷地売却決議に合意したという。

 しかし、中銀カプセルタワービルがこのまま解体されてしまうことでメタボリズム思想の代表的建物が失われることを防ぎ、少しでも後世にこの思想を継承できるよう、買受企業と協議を実施。複数カプセル(最大139カプセル)取得の合意に至ったのだ。

 カプセルタワー解体時には、そのカプセルを取り外し、株式会社黒川紀章建築都市設計事務所の協力により再生されることが決定している。

 再生したカプセルの一部は、希望する美術館や博物館に寄贈を予定。竣工当時のモデルルームカプセルが、現在黒川紀章氏が設計した埼玉県立近代美術館に展示されている。

●いわゆるカプセルホテルが誕生するかも

 同プロジェクトでは2018年より、1か月間のお試し宿泊ができる「マンスリーカプセル」を運営。約2年半で延べ200人以上の人が利用してきたという。こうした宿泊しなければわからないカプセルの魅力を伝えるために、「泊まれるカプセル」も全国で展開予定だという。

 ほかにも、現在の建物を記録する書籍「中銀カプセルタワーの記録(仮)」の制作に着手も着手しており、すでにオーナーや住人の協力を得て、140カプセル中50以上のカプセルの撮影を終了。各カプセルの実測調査も必要と考え、複数大学の建築系研究室の協力により、すでに20数カプセルを終えている。同書籍の出版は、草思社より2022年2月に発売する目標となっている。

※ ※ ※

 同保存再生プロジェクトは、2014年に保存派オーナーと住人を中心に結成。2015年11月に「中銀カプセルタワービル 銀座の白い箱舟」(青月社)、2020年12月には「中銀カプセルスタイル:20人の物語で見る誰も知らないカプセルタワー」(草思社)を出版した。

 そしてカプセルが交換されなかったためにリノベーションがブームとなり、和室やアンティークな内装に改修されてきたのだ。

 カプセルの使用目的も当初想定されたオフィス(ビジネスカプセル)だけではなく、住居や趣味のためのセカンドハウスなど、カプセルの多様性が注目を集め、入居希望者が増加。黒川紀章氏が「個人の空間」として使用されることを想定したカプセルが、「都心の長屋」のようなコミュニティーを形成するようになっているという。同プロジェクトは、そんなコミュニティーの再構築に、今後も取り組んでいく意気込みだ。

Gallery 【画像】まるでSF映画のような「中銀カプセルタワービル」の内部とは(10枚)
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