「F40」とほぼ同額! なぜ地味フェラーリが1億4200万円もするのか?

かつて日本のコレクターの元にもあった貴重なフェラーリが、オークションに登場した。14台しか生産されなかったという、分かる人にしか分からない、レアなクラシックフェラーリの世界を紹介しよう。

ピニンファリーナではない「ボアーノ」とはどんなカロッツェリア?

 アメリカにおいて冬の避寒リゾート地として知られているアリゾナ州スコッツデールでは、毎年1月中旬から下旬にかけて複数の有力オークションハウスが結集し、世界のクラシックカー業界の1年を占う競売が大挙しておこなわれている。

 そんななか、クラシックカー/コレクターズカーのオークションハウス最大手のRMサザビーズ社は、スコッツデール市内の自動車愛好家向け会員制クラブハウス&車両ストレージ施設「OTTO CARCLUB」を会場に、COVID-19感染対策のために入場制限をおこないつつ、メインはオンラインとする大規模オークション「ARIZONA」を、2021年1月18−22日(18−21日にプレビュー、22日に競売)に開催した。

 この「ARIZONA」オークションには自動車だけでも84台が出品されることになったが、今回VAGUEが注目したのは、1956年型フェラーリ「250GT アロイ クーペ by ボアーノ」である。その名のとおり、トリノにかつて数年間のみ存在したカロッツェリア「ボアーノ」が、フェラーリ「250GT」用シャシに架装した軽合金製ボディを持つ、とても豪奢なGTクーペである。

●1956 フェラーリ「250GT アロイ クーペ by ボアーノ」

2020年の「シフトモントレー」で落札された「F40」とほぼ同額だったフェラーリ「250GT アロイ クーペ by ボアーノ」(C)2020 RM Sothebys

 このモデルはたしかにボアーノ製だが、元来のデザインはピニンファリーナによるものだ。その起源は、1953年ジュネーヴ・ショーでデビューした「250エウローパ(Europa:ヨーロッパ)」まで遡る。

 当初の250エウローパは、アウレリオ・ランプレーディ技師の設計した2963ccのV12エンジンを搭載したが、翌年の「250GTエウローパ」はジョアッキーノ・コロンボ技師が最初に手掛けた「125S」から発展した、よりスポーティな2953ccユニットに換装。ボディも若干モダナイズされ、のちの名作「250GT」シリーズの礎となる。

 250GTエウローパのボディ架装は、その後もピニンファリーナが続けていたが、元カロッツェリア・ギア社の共同オーナーで、1954年から自らのコーチビルダーをトリノ近郊グルリアスコに立ち上げていた名匠マリオ・フェリーチェ・ボアーノが、1956年ごろから生産業務を委託され、「250GTボアーノ」と呼ばれることになった。

 この決定が下された理由として挙げられるのは、当時のピニンファリーナがフィアット「1100TV」やアルファ ロメオ「1900スプリント」をベースとする「フォーリ・セリエ」の生産に追われていたこと。また、この時期のピニンファリーナはフェラーリの意向もあって、よりモダンな250GTクーペの量産計画を立てていたことなど、複数の要因が相まって……、といわれている。

 もともとピニン(バッティスタ)ファリーナの兄、ジョヴァンニ・ファリーナが経営する「スタビリメンティ・ファリーナ」出身であるボアーノとピニンファリーナとの関係は深く、ピニンの傑作のひとつであるランチア「B20GT」の基本デザインも、ボアーノが社外コンサルタントとして参画していたという。

 ところがそれから程なくして、ボアーノのもとにフィアットの開発陣を率いるダンテ・ジアコーザ博士から、同社のチェントロスティーレ(デザインセンター)の開設を任せたいというオファーが舞い込んでくる。そこで彼は、優秀な幹部スタッフにして娘の夫でもあるエツィオ・エレーナに自身の工房を任せ、新たに「カロッツェリア・エレーナ」と名乗らせることにした。

 そして、新たに「250GTエレーナ」の名のもとに、居住性アップのためにルーフを少しだけかさ上げするなど、デザインに多少の変更を施して1958年ごろまで生産が続けられたという。

 250GTボアーノの生産台数は74台(ほかに諸説あり)、エレーナは50台。そしてアロイボディ車両はボアーノ時代に14台のみが製作されたといわれ、この個体はその希少な1台なのだ。

 蛇足ながら、のちに伝説の「250GTO」となるレーシングベルリネッタ開発の命を受け、当時フェラーリに在籍していたエンジニア、ジョット・ビッザリーニが製作した試作車「ラ・パペーラ(La Papera=アヒル)」は、エンツォ・フェラーリから貸与された250GTボアーノを切り張りしたものといわれている。

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