相場の10倍となる5000万円!! 『女王陛下の007』ボンドガールの愛車マーキュリー「クーガー」とは

アストンマーティンやBMW、そして日本車においてはトヨタ「2000GT」など、ボンドカーとして有名だが、映画『007』シリーズに登場したアメ車は意外と知られていない。その知る人ぞ知るアメ車と、驚きのオークション落札価格をお伝えしよう。

映画のボンドが乗っただけで、相場の10倍のプレ値に!

『女王陛下の007』は、1969年12月13日に日本で先行公開され、その6日後にあたる12月18日にロンドン・レスタースクエアのオデオン(Odeon)劇場にて、ロイヤルプレミアとして封切りされた。

●1969 マーキュリー「クーガーXR-7コンバーチブル」

『女王陛下の007』劇中で、クナイスル社製スキーをトランクに背負って雪中カーチェイスした「クーガーXR-7コンバーチブル」(C)Bonhams 2001-2020

 前任のショーン・コネリーや、後任のロジャー・ムーアがそれぞれ一時代を築いたのに対し、レーゼンビーはちょっと冴えない印象もあったのか、この一作のみの出演に終わった。そんなことも相まって、007シリーズのなかでは良くいえば「異色の作品」。失敗作ともいわれているようだ。

 しかし、不条理で悲しいラストに終わるストーリーにくわえて、ボンドの内面を深く描写したレーゼンビーの演技も相まって、1960−70年代に一世を風靡した「アメリカン・ニューシネマ」に属する唯一の007作品という見方もあり、現在では映画通や識者を中心に高く評価されているという。

 一方このマーキュリー・クーガーは、イーオン・プロダクションズによって1969年1月30日にオーダー。当初は2月12日に生産される予定だったが、実際には6日前の1969年2月6日にラインオフしたといわれている。そして完成早々アメリカからイングランドに移送され、1969年2月13日に英国内登録がおこなわれたとの記録が残っている。

 エンジンは、ラムエア吸気システムでパワーアップを図った最高性能版「428コブラジェット」を選択し、3速ATと組み合わせている。

●ボンドカーではないが、ボンドが乗ったクーガー

 劇中ではポルトガルのビーチにおけるオープニングシーンに登場したのち、スイスアルプスではクナイスル社製スキーをトランクに背負って雪中カーチェイスまでこなすなど、縦横無尽の活躍ぶり。この作品における本来の「ボンドカー」である1968年型アストンマーティン「DBSヴァンテージ」よりも登場時間が長いともいわれている。

 今回のオークション出品に際しては、当時のフォード・モーター・カンパニー社の公式ドキュメントと請求書のコピーを収めたファイルも添付され、間違いなく映画に出演した個体であることが記載される。

 また同じく添付される「Marti Auto Works Elite Report」によると、「キャンディアップル・レッド」のボディカラーで、ブラックのソフトトップの1969年型XR-7コンバーチブルは、映画のために製作された3台のみと記されている。

 ただし、007シリーズに登場した約40台の「ボンドカー」を今なお保有する「イアン・フレミング財団(IFF)」では、おそらく4台のクーガーが『女王陛下の007』の製作に使用されたと考えているようだ。

 1台は氷上のカーチェイスシーン撮影中にひどく損傷し、そののち廃棄された。また1台は2008年以来IFFが所蔵しており、もう1台はスペインに生息しているとのこと。そして残る1台が、今回のボナムズオークションに出品された個体ということなのだ。

『007』出演後、このクーガーXR-7の行方はさる人物によって登録された1976年まで不明となっていたが、以後はこのオークション出品者が1990年6月に入手するまでに英国内で7人のオーナーのもとを渡り歩いてきた。

 現オーナーは、1990年5月に英国の中古車専門誌「エクスチェンジ&マート」でこのクーガーを発見したものの、この時の広告では『007』劇中車であることは言及されてなかったそうだ。

 そして昨2020年には、シャシからボディを外してフルレストアが施されることになる。ボディはアシッドディップ(希酸浸漬)で塗装や錆を完全に落とした上で、純正色のキャンディアップル・レッドでリペイント。黒のコンバーチブルトップと赤いインテリアトリムも、英国内のスペシャリストによって刷新された。

 また、エンジンやトランスミッション、リミテッド・スリップ・デフなどのパワートレインもすべてオーバーホールされているという。

 レストアが完了したのち、現在に至る走行距離わずか20マイル(約32km)に過ぎず、現状におけるコンディションはいわゆる「ミント」である。映画で使用されたスキーやスキーラックも完全に再現されるなど、コレクターごころをくすぐる状態となっている。

 そして、ロンドン・ボンドストリートにておこなわれた競売では、ボナムズ側に支払われる手数料込みで、なんと35万6000ポンド、つまり、邦貨換算約5060万円という驚きの高値で落札されることになった。

 現在、欧米のクラシックカーマーケットにて、同年代のクーガーが3万−5万ドルあたりで推移している現況と比べれば、この落札価格は実に約10倍にも相当するもの。

「ジェームズ・ボンドが乗った」という歴史が、いかに現在のマーケットを左右するかを、今一度思い知る結果となったのである。

Gallery:【画像】ボンドが乗ったマーキュリーは5000万円!(20枚)