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「959」とは、クルマの未来をつかみとる存在だった

 ポルシェ「959」とは、いったい何だったのか。ポルシェの、否、ひょっとすると、クルマの未来そのものをつかみ取る存在、だったのかもしれない。

 振り返ってみれば、959の成り立ちには、市販車として、およそドイツ車らしくない思想があふれている。

●初物づくし「未来」のスーパーカー

  • 日本にはコンフォートモデルが5台、スポーツバージョン1台が正規輸入された。価格は3300万円。並行輸入車の取引価格は一時2億円が掲げられた

 全てがこの時代にとって初物づくし。ケブラーなどの軽量マテリアル、まったく新しい4WDシステム(もっとも四輪駆動車の実現はフェルディナントがチシタリアで試みて以来の宿願というべきものでもあった)、最新のサスペンションシステム、エアロダイナミクスの徹底追及、レーシングエンジンの公道最適化(シーケンシャルツインターボ)、などである。

 これらを全て詰め込んだ結果、959は、グループBカーとしての存在を越え、高価でかつ高性能なロードゴーイングカーとして、限られた顧客の元へと勇躍、旅立っていったのだ。

 そして、マニアの口の端によくのぼる、「手間のかかる959」話もまた、ほとんどプロトタイプに近い成り立ちを考えれば、さすがのポルシェといえども仕方がなかったのだなあ、と今となっては理解するほかない。(だからこそ、専用工具が積まれていたりする!)

 フロントピラーの立ち上がったキャビンに911の懐かしい面影を見つけることができる。それ以外のスタイリングには、今なお見るべき点が多い。

 否、皆、959を間近でじっくり見たことなどないのではないか。

 911との大まかな類似性と、あの時代の空力の考え方が逆に、多くのクルマ好きの視線を、自らの肢体へじっくり集中させることを妨げたのかもしれない。

 まるでウブな女性のように。

 特徴的ないくつかのポイント、たとえばボディ下部のダクトや、ブリッジタイプのリアウイングなどに注目するだけで、十分、959を見た! という気になってしまうのであろう。

 ところが、実際に959を目の当たりにしてみれば、驚くべき造形ディテールがそこかしこに散らばっていることを発見することだろう。

 フロントフェンダーのドア側から、サイドステップ、リアフェンダーの前インテーク周辺、フェンダーそのもの、そして、なだらかに立ち上がるリアウイングに至るまで。そのひとつひとつが描く巧妙で美しい曲線群は、じっくり見た者だけにうっとりさせる権利を与えるのだと思う。

 そう思って、それぞれの丸みを帯びたラインを手でなでてやると、粘土を捏ねる際の、あのエロティックな感覚によく似た気分にさえなっていく。

 とくに、リアフェンダー前のインテークやリアウイングの立ち上がりにみられる曲線などは、触ってみると得もいえず柔らかなラインで、恍惚となってしまう。

 後方、やや上からの眺めがもっとも素晴らしい。お尻が下がったように見えるところが、かえって艶っぽい。そして、全体的なシルエットは、実は「935モビーディック」の進化版のようにも見えてくる。「911」をベースにした未来のスポーツカーへの提案はやはり、その心臓部と同様、実践的モータースポーツのDNAを有していたというほかない。

 カチャと耳に心地いい音を聞きながらドアを開ける。洒落たトーンのシートに腰を下ろす。80年代の最新。シンセサイザーミュージックに憧れた、懐かしい記憶が蘇ってくるようだ。

 そう、コイツはテクノである。

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