VAGUE(ヴァーグ)

ザガートの「ダブルバブル」はこうして生まれた!

 クラシックカー/コレクターズカーのオークション業界最大手のRMサザビーズ社は、北米インディアナ州エルクハートにて、2020年5月に開催するはずだった大規模オークション「THE ELKHART COLLECTION」を、予定から約半年の延期に相当する10月23−24日に、COVID-19感染対策を厳重におこなった上での対面型と、昨今の新スタイル「リモート入札」の併催でおこなうことになった。

 2輪/4輪合わせて280台を超える自動車が集められたこのオークションは、実は詐欺の疑いで訴追され、破産宣告を受けたというさる実業家の資産売却のためにおこなわれたものだそうなのだが、主に第二次大戦後に生産されたアメリカやヨーロッパ、あるいは日本車も含む名車・希少車たちが勢ぞろいした。

 今回VAGUEが注目したのは、イタリアの名門カロッツェリア「ザガート」が製作した、個性あふれる新旧のベルリネッタ2台である。ちょうど50年の時を挟んだ2台のザガートに、最新の国際マーケットはどんな評価を下したのだろうか。

●1960 フィアット・アバルト「750GTザガート」

  • 1957年のミッレ・ミリアで小排気量GTクラス優勝を獲得したフィアット・アバルト「750GTザガート」(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's

 フィアット・アバルト「750GTザガート」はフィアット「600(通称セイチェント)」のシャシに総アルミ製ボディを組み合わせるという、創成期アバルトの定石の開祖となったモデルといえるだろう。

 アバルトの開祖カルロ・アバルトは、イタリアの国民車的存在となりつつあった大衆車フィアット600のために、専用チューニングキット「750デリヴァツィオーネ」を1956年から発売し、大ヒットを獲得。

 さらにフィアット600用フロアパンを使用したプラットフォームと、アバルト製750デリヴァツィオーネ・ユニットを、当時のイタリアには数多く存在したカロッツェリアに供給することにした。

 そしてこのオファーに応えるかたちで、1956年のジュネーヴ・ショーに出品されたのが、のちにフィアット・アバルト「750GT」の主力となった、カロッツェリア・ザガート製ベルリネッタの最初期モデルである。

 ちなみにこのショーでは、ベルトーネ製の未来的なベルリネッタ、カロッツェリア・ヴィオッティ製の瀟洒なクーペ、カロッツェリア・ギアがフィアット600ボディの750デリヴァツィオーネを豪華にドレスアップしたモデルも同時に展示されたが、ザガート製ベルリネッタは4台のなかでもっとも大きな反響を得たことから、シリーズ生産化が決定するに至ったといわれている。

 こうして少量生産がスタートした750GTザガートだが、空力効率を追求するあまり徹底して低いデザインとされたルーフは、ヘッドルームが不足してしまうとの評価を受けたことから、この年秋のトリノ・ショー以後に製作されたシリーズ2では、ルーフの左右に大きな「こぶ」を追加することとなった。これが、のちにザガートのアイデンティティとなる「ダブルバブル」が誕生したいきさつである。

 そして、それからわずか数か月後の1957年初頭には、ノーズをいっそう洗練したデザインとし、リアエンドもスタイリッシュなテールフィン状にソフィスティケートした完成形、いわゆる「シリーズ3」へと進化。1957年のミッレ・ミリアで小排気量GTクラス優勝を獲得するなどの大活躍を見せることになったのだ。

 ところで、フィアット・アバルト750GTは、イタリア本国やドイツなどのヨーロッパはもちろん、アジアや中南米にも輸出された。なかでも生産数の6割以上を占める大市場となったのが、合衆国元大統領フランクリン・D.ルーズベルトの第3子、フランクリン・D.ルーズベルト・ジュニアが総代理権を有していたアメリカだったという。

 アメリカでおこなわれた大規模オークション「THE ELKHART COLLECTION」に出品された750GTダブルバブルは、概ね生産が終わりつつあった時期の1960年型。

 新車としてアメリカに上陸した「ルーズベルトもの」ではないが、1989年からミシガン州の著名なレーシングカーコレクターが長らく所蔵していた個体とされる。

 ここ1、2年、緩やかな下降傾向にあった750GTのマーケット相場から、RMサザビーズ社は8万−10万ドルのエスティメート(推定落札価格)を設定していた。

 ところが実際の実際にオークションがスタートすると、ビッド価格は大きく跳ね上がり、最終的な落札価格は16万8000ドル、つまり約1760万円で決することになったのだ。この驚異的な落札価格は、クラシックカー価格がもっとも高騰していた2010年代中盤のマーケット感に近いものとなったともいえるだろう。

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